ナンパマシーンに自己改造

ミステリーは2000年代はじめに、オンライン上のPUAコミュニティに彗星のように登場し、数々のフィールドレポートを発表して、その圧倒的な成功率でたちまち注目を集めた。

出会いからベッドインまでをフローチャートのようにルーティーン化するミステリーのメソッドは、催眠を使ったジェフリーズの手法とはまったく独立に開発されたもので、それ以外にも「横柄さとユーモアの組み合わせ」で女性を支配するとか、「動物並みの性欲」をアピールしてスキンシップをエスカレートさせていくとか、さまざまな流派が登場した。

非モテであることにコンプレックスを抱いていたニールは、有名音楽雑誌『ローリングストーン』のライターという肩書を使って多くのナンパ師とつき合った。ありとあらゆるテクニックを収集して、自分を「最高のPUAたちのパーツを組み合わせて設計されたナンパマシーン」につくり変えようとしたのだ。

仕事もなにもかも放り出して、スキンヘッドにスタイリッシュなジャケット、指輪やネックレスなどのアクセサリー、さらにはフィットネスで「自己改造」したニールは、半年もたたないうちに、ミステリーから相棒と認められる最高クラスのPUAに出世し、「スタイル」と名乗るようになった。

ニールはその後、PUAコミュニティについての記事を『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿して大きな評判になり、それを読んだトム・クルーズから『ローリングストーン』誌のカバーストーリーのインタビュアーに指名された(その後、トム・クルーズはハリウッドのセレブが集まるサイエントロジーのパーティにもニールを招待した)。

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ブリトニー・スピアーズをナンパする

PUAの知名度を上げ、自らも有名人の仲間入りをしたニールは、ミステリーや仲間たちとともにハリウッドに豪邸を借り、「プロジェクトハリウッド」と名づけて自分たちのメソッドをビジネスにしようとした。

この豪邸には一時期、ニールがインタビューで知り合ったコートニー・ラブ(グランジ・ロックの代表的なバンド「ニルヴァーナ」のボーカリスト、カート・コベインと結婚して一児をもうけたが、コベインの自殺のあとさまざまなトラブルを引き起こした)が転がり込んできたこともあった。

そんなめまぐるしい出来事のなかでも、ニールにとって大きな出来事はブリトニー・スピアーズへのインタビューだった。2000年代はじめだから、ブリトニーが20歳を過ぎてセクシー路線に転換し大成功した頃で、まさに「世界でもっとも有名な女」だった。

だがそのインタビューは、なにを訊いても「よく分かんない」「えっ、何?」の気のない言葉が返ってくるだけだった。インタビューを成功させるには彼女を口説くしかないと決めたニールは、質問リストを折り畳んで尻のポケットに入れ、PUAの「スタイル」に変身する。

「君のことで、ほかのヤツらがおそらく知らないことを教えてあげよう」と、ニールは話しかけた。「人々はときに舞台裏の君を内気だとか不機嫌なヤツだと見ているよね。実際はそうじゃないのに」

「そのとおり」とブリトニーはうなずいた。

「君がしゃべるときの瞳を見ていたんだけど、君は何か考えるたびに視線が下がり、左に行く。これは君が運動感覚的な人物ってことだ。感情で生きるタイプの人間だ」

「驚いた」と彼女はいった。「そのとおりよ」

これは「目の動きから思考パターンを読み取る」NLPのテクニックで、ミステリーはそれを「価値証明のルーティーン」に発展させていた。ニールがさまざまな視線の読み方を教えると、ブリトニーは「心理学の授業を受けなくちゃ」と真剣になった。ニールの「ゲーム」がはじまった。