新しい世代のネオンは単色で柔らかな字体に

ネオンに関する知識は後付けで、ネオンのネの字も知らない私であったが、2年前から、私のネオン探索の日々がはじまった。同行してもらえる日には前述の編集者も一緒に、いろんな街でネオンを探した。はじめの頃は、ネオン風LEDを、ネオンと間違えることも度々だった。

今はLEDを精巧にネオンに似せているものもある。だが、慣れてくるとドットで直線的なLEDの光と、ガラス管の中で柔らかく拡散されたネオン管から発せられる光の質の違いに気付き、その優しく温かい光に魅了されていった。

横浜市(筆者撮影)

そして昨年春、この撮影をはじめてまもなく、街はコロナ禍に見舞われていった。ネオンを灯してきた多くの店が休業廃業に追い込まれていく様をみた。ネオンがあることをネットで検索して訪れた店の中には、直前に廃業していた店も少なくなかった。撤去された壁に、長年のネオンの発熱で煤けた壁の痕を見つけ、心が痛んだ。

そのたびにかつてあった賑わいを想像し、やり場のない気持ちに包まれたのを覚えている。私自身、普段は人物撮影を中心に活動しており、対面でしか撮影が成立しないため、一時は全く仕事がなくなっていた。街々で起こっていた事は決して他人事とは思えず、一層ネオン撮影に力が入った。

そして、街の様相が変わりはじめたのに気付いたのは、今年に入ってからだった。

飲食店に限らず、もともと比較的新しい店舗にネオンサインを採用している店は多かったが、閉店廃業した空き店舗を居抜きで借り受け、新規でオープンした多くの店に、また新たなネオンが灯りはじめるのを見た。

昔のネオンが多くの色を使用し存在を強く主張するものが多いのに対して、新しい世代のネオンは単色で柔らかな字体のものが多く、周辺環境への配慮を感じるところに、時代意識の変化を感じた。

日本で唯一、ネオン管の材料を制作しているメーカーさんによると、かつて会社の主力は、屋上塔屋などの大規模なネオンで使われる14ミリの太さのネオン管だったが、震災後、その14ミリ管の発注は極端に減った。

街が、ネオンの灯りに求めたのは何か

一方、ネットやSNSの発達によって、ネオン管の魅力を知った個人店主が、ネオン工房を自分で探して発注するようになり、店内や小規模店舗用に良く使わる10ミリ管の需要が、ここ数年で一気に増加している。それは震災前の10倍近いという。

中村治『NEON NEON』(LITTLE MAN BOOKS)。608ページ・2970円(税込)。

企業からの依頼は減ったが、個人店からの発注が増え、人気のあるネオン工房は今活況を呈しており、SNSで熱狂的に支持されるネオン職人もいる。新たな店舗でSNSに投稿されたネオンが客を呼び、客が店に集うことで、また新たなネオンを生み出している。

このネオンの撮影では、消えゆく時代の残り香を追いかけていたら、新しい時代を撮影することになった、という不思議な感覚があった。レトロブームというのは、単なる懐古主義ではなく、時代の変遷を意識しながら、歴史の積み重ねを受け取り、今を生きるということなのかもしれない。

ネオンが灯る夜の街も、我々の都市の一部であることに何の変わりはない。ネオンが灯す光が世代を超えて今また、なぜ人々を魅了するのか。疲弊した街が、ネオンの灯りに求めたのは何だったのか。そのことを、コロナと共に生きる街を歩きながら、ぜひ一緒に考えて頂きたい。

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