お客さんの名前を忘れたときにどうすればいいか
名前はその人にとって特別なもので、人は名前を呼ばれると「認められた」と感じて気分がよくなります。
ただ、その名前がどうしても思い出せない、街でばったり会って「久しぶり」と声をかけられても、その人の名前が出てこない。親しげに話しかけられて仕方なく、名前がわからないまま探りながら、あいまいな会話でごまかして冷や汗をかいた――こうした経験は誰にでもあると思います。
「クラブ由美」のお客さまにも、目の前の商談相手の名前が出てこなくて難儀した、部下の名前を間違えてがっかりされたといったエピソードをお持ちの方が少なくありません。私は仕事柄、名前を覚えることがおもてなしのひとつとの思いで、かつては3000人のお客さまのお顔とお名前、1500件余りの電話番号を記憶していました。
今も名前を忘れてまったく出てこないということはないのですが、それでも一瞬「あれ?」となることはたまにあります。名前が出てこないと、もう会話どころではなくなってしまいます。焦れば焦るほど記憶の扉は固く閉ざされてしまうもの。
皮肉なことに、何とかやり過ごしてホッと安堵した途端、「あ、△△企画の○○さんだった!」と思い出しても後の祭り――。名前は、呼んでもらえると嬉しいけれど、逆に忘れられていることで受けるショックも大きいもの。名前を覚えてもらえないのは、「自分に興味がない」のだろうと思われ、相手を傷つけてしまいます。それでも出てこなくなるのが「ど忘れ」。
こうした事態に遭遇したときには、どう対処するのがいいのでしょうか。
名前を忘れたことを伝えて素直に謝罪するのが一番いい
やはり、「どちらさまでしたっけ?」と聞くのは相手に失礼になるからと、思い出せないままごまかしてやり過ごす人が多いと思います。
でも、何かの拍子に「忘れたまま話を合わせている」ことがバレてしまったときの気まずさを考えたら、やはりごまかすのは得策ではないでしょう。ひとつの作戦として、もう一度名刺をもらうという方法はあります。このとき、ただもらうのではなく「交換」するほうがいいでしょう。
「新しい名刺をお渡ししていなかったので、改めて交換させていただいてもよろしいですか?」
こちらから渡すついでに名刺をいただく。そうすれば「名刺をなくした」と言うより失礼にならず、スムーズに名刺をいただいて名前を確認できるでしょう。渡す名刺は新しくなくてもかまいません。「じゃあ、すでにお渡ししていたんですね、うっかりしてました」でクリアできます。
ただ、相手から名刺を持っていないと言われたら、この方法は通用しません。そう考えると、策を弄して聞き出そうとするより、正直に「大変失礼ですが、お名前を失念してしまいました。どちらさまでしょうか?」と聞き直してしまったほうが格段に潔いと言えます。
そうしたときにはどうしても「五十を過ぎると物忘れが増えてしまって――」「お酒の飲みすぎで――」などと軽いエクスキューズを入れたくなるもの。でも、それが許されるキャラクターの人ならともかく、多くの場合は苦しい言い訳にしかなりません。忘れていることをごまかすことは、謝罪して素直に聞き直すことよりもはるかに失礼です。
聞くなら、きちんと詫びて聞き直す。下手に取り繕うよりも、このほうがダメージは小さくて済むでしょう。