寺院経済の悪化は、空き寺問題をより深刻化させる
では、そうした宗教法人を解散し、不動産を処分すればよいのではとの指摘もあるが、それは容易ではない。無住寺院は仮に現金や有価証券の精算が済んだとしても、本堂や本尊、宝物、庫裡、梵鐘などのほか境内地などの多くの残世資産を有する。都心のど真ん中の寺院であればまだしも、こうした財産は、不良債権なので行政は引き取ってくれない。空き家問題と同じ構造である。
そこで浄土宗は各宗門を包括する全日本仏教会と協力して、本格的に国有化に動き出したのが2020年のことであった。宗教法人法50条3項には「処分されない財産は、国庫に帰属する」と明記されているからだ。
この理屈であれば、多くの不活動宗教法人を国に渡せばよい、ということになるが、戦後はそうした事例は一例も出てこなかった。
その理由は国庫に帰属させるための手続きが煩雑だからだ。まず寺を解散させるためには責任役員会を招集し、解散手続きを進めなければならない。だが、不活動寺院では役員がいないケースもよくある。また、残余資産を確定させるためには土地の測量などが必要になるが、広大な境内地の測量には多額の金がかかる。
浄土宗は2020年春に財務省松江財務事務局に対して、金皇寺の国有化を申し立てた。国も活動実態のない金皇寺が悪用される可能性があるとして、費用と時間のかかる測量などは実施せず、解散手続きを迅速に進めた。
浄土宗も地目の変更(墓地から山林など)、墓石や灯籠の撤去、周辺の民家に影響がないように山門を引き倒すなど、最低限の措置を実施。170万円ほどの支出は生じたものの、晴れて今年10月、所有権が財務省に移って手続きを終えることができた。
宗教法人の国有化の先例ができたことで、今後、同様の不活動宗教法人の国有化や、解散手続きが迅速になる可能性がある。
はや2年が経過しようとしているコロナ禍は、寺院経済に深刻な影響を与え始めている。私が代表を務める「一般社団法人良いお寺研究会」の調べでは、コロナ以前の仏教界の市場規模(寺院総収入)はおよそ5700億円であったが、2020年はおよそ2700億円に激減。2021年でも3000億〜3500億円程度(推定値)にしか、回復していないと考えられる。寺院経済の悪化は、空き寺問題をより深刻化させる可能性がある。
空き寺問題は仏教界だけの問題ではなく、社会全体の問題として捉え直す必要がありそうだ。