戦後初めて「食べていけない寺院が国有化」された意味

こうした中、空き寺問題へ一石が投じられた。今年10月「寺院の国有化」という、戦後初めての事例が誕生したのだ。

それが、島根県大田市仁摩町の金皇寺こんこうじである。金皇寺は16世紀に開かれ、石見銀山とともに発展してきた浄土宗寺院だ。金皇寺は12万平方メートル(約3万6400坪、山林の割合が多い)という広大な境内地を有している。

国有化の手続きが進む金皇寺。本堂(左)と庫裏(右)は解体せず国庫に帰属させる=島根県大田市で2020年12月2日午後2時36分、目野創撮影
写真=毎日新聞社/アフロ
国有化の手続きが進む金皇寺。本堂(左)と庫裏(右)は解体せず国庫に帰属させる=島根県大田市で2020年12月2日午後2時36分、目野創撮影

金皇寺では2013年に住職が死亡。その後は後継者もなく、無住状態が続いていた。檀家は20軒ほどしかなく、「食べていけない寺院」であるため、誰も住職になろうとしなかったのだ。

住職の専業では食べていけないため、仮に副業を持つにしても、当地は島根県松江市から車で2時間ほどかかる過疎地だ。住職が亡くなった後は、完全に無人化し、葬儀や法事といった儀式もできなくなり、伽藍も朽ち、荒れ果てていった。

こうした宗教法人を放置し続けることは極めて危険である。たとえば、廃虚となった寺院にYouTuberや不良者がたむろしたり、文化財が盗まれたり、壊されたりすることは地域の安全を脅かすことになる。

ブローカーや反社会的集団などの格好の標的になる

だが、そんなことはまだマシなほうで、無住寺院はブローカーや反社会的集団などの格好の標的となる。

宗教法人は、法人税や固定資産税の免除など非課税部分が多い。そのため、民間企業が無住寺院の権利を手に入れて、売り上げを非課税の布施として計上して脱税するケースなどがみられる。

過去には香川県では不活動宗教法人を隠れみのにして、全国でラブホテルチェーンを展開し、売り上げをお布施扱いにして所得隠しをするような事例が起きている。また、カルト教団が無住の寺や神社を乗っ取って、布教や怪しい修行や儀式をするような危険性も考えられる。

金皇寺でも、海外のブローカーが寺を買収し、産業廃棄物の仮置き場にしようとする動きがみられた。金皇寺が保有する山林は水源地でもあるので、地域の安全が脅かされることになりかねない。