日本の対ミャンマー外交のイメージと不可分
好むと好まざるとにかかわらず、笹川会長の思想や言動は、日本の外交の一環として、ミャンマー情勢に影響を与える。日本政府そのものが、ミャンマー情勢に対してほとんど何も語らないがゆえに、なおさらその傾向が出てくる。笹川会長が何を体現しているのかは、ミャンマーに対する日本外交の対外イメージと不可分なものになっているのだ。その観点からの検証が必要である。
2013年から2019年まで日本財団ミャンマー事務所を統括するシニア・プログラム・ディレクターを務めたのは、シエラレオネやハイチにおける国連PKO(平和維持活動)でDDR(武装解除・動員解除・社会再統合)部門を率いた経験を持つ元国連職員だ。私の大学の同僚の伊勢崎賢治氏の元部下であり、東京外国語大学Peace and Conflict Studiesで博士号を取得した元アイルランド軍人である。私自身にとっても旧知の友人である。
笹川陽平氏は、このアイルランド人を引き合いに出して、ミャンマー人の西洋人嫌いを語る。「……アイルランド人は紛争解決の専門家なんだけれども、少数民族の土地に入れてもらえません。『西洋人は立ち入り禁止、信用できない』っていうことで、いちばん腕のある人間が入れないで、ウンウンうなっているんですよ、かわいそうに(笑)。やっぱり上から目線で偉そうなことを言うでしょう。そういうのを嫌うんですよ、彼らは誇り高いからね。……」(*5)
言葉からにじみ出る根深い欧米不信
笑い話のように述べている笹川陽平氏の言葉は、日本財団の立ち位置もよく言い表している。和平調停のあっせんを狙って活動しているが、国際標準の平和構築活動を適用しているという姿勢ではない。欧米人は「上から目線で偉そうなことを言う」が、ミャンマー人はそれを嫌う。それに対して笹川会長の日本財団は偉そうなことを言わず、ミャンマー人に好まれる。
笹川陽平会長自身の言葉を見てみると、あらためて根深い欧米不信を持つ人物であることがわかる。決して反欧米主義者だ、と言うべきではない。財団の活動を通じて、外交的な意味での日米関係の安定にも寄与しているだろう。しかし、欧米人はアジアやアフリカを下に見ている、アジアやアフリカの問題の多くは欧米の植民地主義がつくり出したものだ、と繰り返し語る態度からは、この世界観が笹川会長の一貫した国際問題へのまなざしとなっていることを感じさせる。