もともとの大学は市民の自主的な活動の場だった
この会議によると、世界の主要な大学は3つの異なる設立の歴史がある。
ヨーロッパの大学は歴史の古い大学が多く、最古の大学は11世紀に創立されたイタリアのボローニャ大学で、13世紀までにフランスのパリ大学、英国のオックスフォード大学やケンブリッジ大学、ポルトガルのコインブラ大学などが設立されている。伝統的に教養のある貴族や市民を育てることが目的であった。ドイツのように、職業訓練校は大学とは別にあることもあり、大学に進学する資格をバカロレア(フランス)やアビトゥワ(ドイツ)のように国家試験で取得する国もある。
そもそも大学は、ボローニャでは学生の組合として教師を雇って学びの場を作ることから始まっており、パリでは教員の組合として出発した歴史がある。つまり、学問を通じて教養を高め、社会をより良いものにしようとする市民の自主的な活動の場であったのだ。それがしだいに、国が責任を負うという意識が強まり、授業料を免除して若い世代に広く高等教育を受けさせようとする風潮が広がった。
1999年にはEU諸国を中心にボローニャ宣言が出され、47の加盟国のどの大学でも同レベルの学位が認定されるようになり、学生は単位互換制度によってどこの国でも学位が取得できるようになった。この目的として掲げられたのは、広範で質が高く進んだ知識基盤が整備され、安定して平和的で寛容なコミュニティとして発展できること、質の高い高等教育を求めて多くの国からヨーロッパに学生が集まること、などであった。
「何のための大学か」は国によって違う
しかし、大学が何のためにあるのか、という定義をめぐって国ごとに違いがあり、ドイツのように学問や研究を主眼とする国から、英国のように職業訓練も含めて個人の能力を高めることを目的とする国までさまざまであることから、カリキュラムを標準化するのが難しいといった問題も指摘されている。
さらに、EU諸国は原則として授業料が無料になるが、最近は経済的な理由から授業料を徴収し始めている大学もあり、学生が国を超えて移動しにくくなっているとも言われている。
北米の大学はヨーロッパの思想を受け継いでいるが、市民や企業の資金を集めて作られており、目的は多様で職業訓練のための大学も多い。最も古い大学は独立前の17世紀に創立されたハーバード大学で、理事会や学長の力が伝統的に強い私立大学が主体であった。19世紀まで教員の給料は安く、簡単に解雇されないために教員たちが組合として大学教授協会を結成し、テニュア制度(教授としての終身在職権)を確立したと言われている。
高等教育は個人の能力(道徳、知性、作法、知識)を高めるためといった考えが強く、授業料は高くて個人負担が原則だが、国や州からの支援も手厚い。現在、米国には約4800の大学やカレッジがあり、そのうち研究大学と呼ばれるのは100程度である。コミュニティ・カレッジと呼ばれる州立の短期大学には、高校卒業あるいは18歳以上なら誰でも入学できる。また、カレッジボード(大学入試センター)が主催するSATと呼ばれる標準テストで一定以上の成績があれば、州立大学の入学を許可される。
さらに、ハーバード大学やスタンフォード大学などの名門大学には、約1割の縁故入学や金銭入学も許されていて、名門や大金持ちの家の出身者が正規の学生として学んでいる。ただ、最近はどこの大学も授業料を値上げしており、学生たちはローンで授業料を払うものの、その返済に苦しんでおり、国の大きな社会問題となっている。