大学は少数のエリート養成所ではなくなった
アジアの大学で最も古いのは、三国時代の呉が258年に開設した「太学」で、これが現在の南京大学と言われているが、継承されているかどうかはよくわからない。大学という名称で最も古いのは17世紀に創立されたフィリピンのセント・トーマス大学で、カトリックの聖職者を養成する目的の私立大学だった。
その後、19世紀から20世紀にかけてアジアに創立された大学は、北京大学、マラヤ大学、シンガポール大学、ソウル大学など官僚を養成する国立大学であり、いずれも国のためという意識が強い。官僚になれば身分は安泰で親族にもさまざまな恩恵がおよぶ。そのため、大学に入学することは出世のための登竜門であり、古くから受験競争は苛烈だった。授業料は国が負担するが、官僚になるための国家試験も厳しく、大学生には高い教養が求められた。
しかし、20世紀の後半からグローバリゼーションの波を受けて、これらの大学システムは変革を余儀なくされるようになった。その原因は、大学入学者の急増と国家財政の悪化である。1960年に1300万人だった世界の大学生は、2008年には1億5000万人まで増加した。
それに伴い、大学は少数のエリートを養成する場所ではなくなり、さまざまな能力を養成する教育機関に分化し始めた。また、金融市場が世界に広がり、財政を悪化させる大国が相次ぎ、国の資金で高等教育を担うことが困難になった。ヨーロッパでは授業料を国による学生ローンにして、就職後に給料から天引きする制度が作られるようになった。
運用のプロが大学を運営するスタイルが席巻
この流れに乗って世界を席巻し始めたのが、北米式の大学運営である。企業や個人の投資や寄付によって大学が自己資金を集め、その運用利益で運営費を調達する。資金の運用を図るプロが大学に雇用され、経営にも企業から出向して参加する。米国の大学の多くは私立大学で、こういった企業型の運営方法を実施している。
研究型大学の筆頭であるハーバード大学は3兆〜5兆円の自己資金を持ち、約1割となる運用利益を年間の大学運営費に充てている。授業料も高く、それを支払う能力のある学生を呼び込むとともに、授業料免除枠を設けて優秀な学生を世界から集めている。
この企業型運営方法は急速に世界へ広がり、アジアやヨーロッパでも自己資金を増やす大学が続出している。資金を得るためには大学が評判を高める必要があり、世界の大学ランキングはこういった背景によって登場したといっても過言ではない。