教育を食いものにする社会悪

逮捕の発端は、田中の側近だった大学理事の井ノ口忠男と医療法人「錦秀会」の藪本雅巳理事長が、日大医学部附属板橋病院の建て替えを巡り、大学に4億2000万円の損害を与えた背任容疑で逮捕、起訴されたことだった。

そのカネの一部が田中に渡っているのではないか。特捜部は今年9月8日に阿佐ヶ谷の彼の自宅で1億円超の現金を発見、藪本からも約6000万円を田中に渡したという供述を引き出していた。

約5300万円を脱税した所得税法違反容疑だが、特捜部は最初から、5年以下の懲役である背任ではなく、10年以下の懲役の所得税法違反でやるつもりだったと、週刊文春(同)が報じている。

それが証拠に、特捜部から上級庁には、このような報告がなされていたというのである。

「特捜部は、すべて当初の予定通り、田中を逮捕いたします。かねてよりご報告の通り、教育を食い物にする社会悪としての田中を、可罰において重い量刑を科す本来目的の、所得税法違反による逮捕です。すべては狡猾な巨悪を油断させるための“死んだふり”が功を奏しました」

だが、立件・逮捕に至るまでには高いハードルがあったようだ。

決定的な証拠をつかめない中、作戦を変え…

捜査の手が伸びると、田中は駿河台にある日本大学病院に逃げ込んだ。そこで行われた特捜部の任意の事情聴取では、一貫して容疑を否認し強気だったという。

「田中氏が背任工作のスキームを指示、あるいは承知していたことを証明する必要がありましたが、それが難しかった」(司法担当記者)

田中はいちいち細かいことには口を出さないため決定的な証拠がない。背任の共犯での立件は困難だという見方が広がったそうだ。

そこで特捜部は、田中が会長を務める国際相撲連盟を使った金の出入りと、昨年行われた田中邸のリフォームをめぐる支払いの疑惑へと、戦線を拡大していった。

だが、相撲連盟のほうは任意団体で、会計報告の義務もなく、突破口にはならなかったようだ。

リフォームのほうは、工事の窓口になったのは田中が信頼を置く相撲部のOBで、かつて日大の建設工事などの差配役を担った会社の元社員だった。

その人間は田中の紹介で石川県の建設会社の営業部長になり、日大の子会社・日本大学事業部にも籍を置いていて、リフォームは件の会社が請け負い、日大工学部がこの会社に発注した別の工事費用と併せて処理されていたフシがあったが、このルートも不発に終わった。

そこから特捜部は、脱税に焦点を合わせていって、ようやく逮捕にこぎつけたというのである。

田中は逮捕されて理事長を辞任したが、彼にはいくつもの疑惑がある。冒頭書いた暴力団との強いつながりがひとつである。