社会主義の凋落が生む宗教回帰:日本も例外でない?
神の存在を信じているかどうかについての世界のこうした多様性を踏まえ、次に、この点に関する世界各国の変化の方向性について調べることで、現代社会が置かれている精神世界の一端を垣間見ることにしよう。
図表3には、異なる時期の「神の存在」を信じている割合を比べるため、X軸に2000年期(一部2010年期)の値、Y軸に最近の2017年期の値を取った散布図を掲げた。対象はどちらの時期にも調査が行われた国である。
ここで2000年期とは多くの国が2000年に調査を開始した調査回を指す(実際には1999~2004年に各国で調査が実施されている)。2010年期、2017年期も同様の表現である。
この散布図の右上の国は両時期を通じて神の存在感の大きい国、左下の国は小さな国である。
一方、視点を変えて、45度線より左上に位置する国は、以前より神の存在を信じる人が増えた、いわば「宗教復活」の諸国であり、45度線より右下に位置する国は、以前より神の存在を信じる人が減った、いわば「脱宗教化」の諸国である。
そして45度線より距離が離れているほどその程度が大きいと判断できる。
両時期ともに値が非常に高く、スペースの関係で図中に国名を記せなかったバングラデシュ、フィリピンなど11カ国以外では、45度線より右下に位置する国が多い。特に、主要先進国(米国、英国、フランスなど)は、日本を除いていずれも45度線より右下に位置している点が印象深い。この点から、世界では脱宗教化が大勢であることが理解できる。
それでは、45度線より左上に位置する「宗教復活」の諸国はどんな国であろうか。国名を見ればわかる通り、ギリシャと日本を除けば、いずれも旧社会主義国(一部社会主義国)である。社会主義国では「宗教はアヘンだ」とされ、「神の存在」を信じる者は白眼視されていた。ところが、ソ連崩壊以降の脱社会主義の流れの中で、「神」や「宗教」が復活してきているのだと見て誤りないだろう。
旧社会主義国の中でもポーランド、クロアチア、スロバキア、チェコなどは45度線より右下に位置する国となっているが、これらの国では、以前より社会主義思想の感化力が弱かったため、欧米諸国一般と同様の脱宗教化の動きとなっていると解することができる。
45度線からの距離が大きく、宗教復活の程度が大きい国として、ロシアとベトナムが目立っている。2000年期から2017年期にかけて、神の存在を信じる人の割合が、ロシアでは60.4%から74.4%へ、ベトナムでは17.7%から48.5%へと大きく増加しているのである。社会主義思想の影響力が大きく弱まり、ロシアではギリシャ正教が復権し、ベトナムでは仏教やフランス統治下時代以来のカソリックなど種々の既存宗教が復活するとともに、諸宗教が混交した新興宗教も盛んになってきているからと考えられる。
社会主義国だったわけでもないのに、旧社会主義国と同様に宗教が復活してきている点で目立っているのは、ギリシャ(83.7%→91.8%)と日本(35%→39.2%)の2国である(そもそもの神の存在感に大きな隔たりがあるが)。
ギリシャは社会主義政党が選挙で政権を握っていたこともある、社会主義の影響度の高かった国である。実は、日本も思想的には社会主義の影響が強かったため、今になって、旧社会主義国と同様に、宗教の復活現象が起こっていると解することも可能なのである。