京王電鉄グループが実施した「人形供養」に6500体以上が集まった

実は近年、奉納する数が激増しているアイテムが「人形」である。人形供養は数多あるモノ供養の中でも歴史も長く、供養を実施している寺社の数はかなり存在する。

なかには数百年もの人形供養の歴史を持つ寺がある。千葉県の長福寿寺での人形供養は室町時代後期にさかのぼる。第17代住職の豪仙は織田信長の比叡山焼き討ち後の延暦寺を再興した高僧として知られているが、その豪仙の元にある時、若い娘が一体のボロボロになった人形を持って、訪ねて来た。聞けば、この人形は娘の祖母が、娘に子供が生まれた際に心を込めて作ってくれたものだという。しかし、その祖母も亡くなり、祖母への感謝の念を込めて、人形を供養してほしいと娘は訴えた。

豪仙は十一面観音の前で供養しつづけた。3カ月ほど経った時、その人形は嬉しそうに微笑み、「成仏」したという。娘は心底喜んだ。この人形供養はたちまち噂になり、近隣の村々から寺に人形が持ち込まれるようになった。

以来、長福寿寺では豪仙の気持ちを引き継ぎ、人形供養を行っている。人形抱き観音の前で3カ月間、供養され、その後は境内にある専用の「人形火葬炉」でお焚き上げされるという。

撮影=鵜飼秀徳
人形供養祭の様子

長福寿寺を含め、人形供養は全国に70以上、存在する。多くは昭和50年代に始まり、いまなお、増え続けている。近年は企業も人形供養を始めた。

京王電鉄グループの葬儀会館・京王メモリアルは2015年から、毎年11月下旬に東京都多摩市の葬儀会館で人形供養祭を実施している。

この行事は京王線の電車内の中吊り広告などでも告知され、沿線の住民にとっては恒例のイベントとして定着してきている。人形供養祭は、家庭内にしまい込まれている人形やぬいぐるみを同社が引き取って、僧侶がその場で魂を抜いて、供養してくれる宗教儀式である。

今年は11月20日、21日に実施。計800人以上の来館者があり、6500体以上の雛人形やぬいぐるみが集まった。集まった人形は葬儀会場で、八王子市内の僧侶によって「葬儀(魂抜き)」が実施された。

首都圏における人間の葬式は「家族葬」「直葬」「1日葬」などの簡素なものがほとんどで、コロナ禍では参列者も数人というケースもよくあるパターン。だが、この人形供養の規模感をみる限り、人間の供養よりもはるかに手厚いのが不思議である。