いきなり「クリエイティブになれ」と言われても

地銀におけるデジタル化の最大のメリットは、顧客の利便性向上ではなく、人員削減によるコスト削減効果だろう。

銀行は、AIやRPA(ロボットによる業務効率化)導入などに伴う業務量削減によって生じた余剰人員を営業現場に投入し、コンサルティング業務を強化するという。だが、果たして事務やバックオフィス、本部にいた人材が、いきなり営業の最前線で、従来以上に専門知識や顧客配慮が求められる法人向けビジネスや、個人の資産運用の相談において活躍できるのだろうか。また、本人はそれを希望しているのだろうか、という疑問が残る。

いままでずっと長期的な安定を重視し、ジェネラリストとして働いてきた銀行員に、急にコンサルティング力やIT力にクリエイティブまで、すべてを求めるのは酷であり、一種のパワハラだといってもいい。

近年、「ジェネラリストに価値はない。全員がスペシャリストになれ」「これまで比較的単純な作業に従事してきた行員を、よりクリエイティブな仕事に振り向ける」といった銀行トップの発言も目につく。

しかし、事実上の年功序列と終身雇用という暗黙のルールのなかで、2年から3年での異動を繰り返し、様々な研修を受け、色々な職場を体験するジェネラリストを意図的に養成してきた地銀とその行員に、急にそんな大転換が可能なはずもない。

デジタル人材育成のため、行内での研修を充実させるというが、クリエイティブな職種であればあるほど、研修や資格ではカバーできない経験とセンスといったものの比重も大きくなるのだ。

一律の新卒採用をやめる時が来た

地銀には、デジタル人材の中途採用を強化する一方、新卒採用を原則廃止する施策も必要となろう。銀行業務のスマホ化・デジタル化で店舗が削減され、余剰人員が増えているのに、新卒一括採用を続けるのは背任行為ともいえる。

とりあえず新卒を採用しておくという体質は、とりあえず老朽化した本店や研修所は建て替えておこうという発想と同じで、愚策であり、とりあえず採用された者はたまったものではない。

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地銀が、地元での新卒採用を率先して廃止し、通年採用と専門職採用を主とすれば、形骸化している大学生や高校生の就職活動のあり方も大きく改善されるはずだろう。減少しているとはいえ、大量採用をおこなっている地銀には、地域の就活を変える力があるはずだ。

地銀のスマホ化と業績低迷が進むなかで、新卒採用の抑制や定年退職など自然減だけでは対応できず、雇用維持が前提のビジネスモデルは間もなく崩壊する。

その結果、先にも述べたが、中京銀行が先陣をきった早期退職制度という名の人員削減が、現実化している。他の地銀でもこれから雪崩を打って進むことになろう。表向きは、セカンドキャリア支援制度、チャレンジ・キャリア制度、起業・独立応援などもっともらしい前向きな名前となろうが、要は早期退職制度である。