財政規律の強化のほかに、当初、13年7月に設立することになっていた欧州安定メカニズム(ESM)は、その設立のためのリスボン条約の改正(ESM条約に向けての調整)、すなわち、EU諸国間における財政移転禁止の改正を早期に進めて、12年7月に稼働することを目指す。
また、欧州金融安定ファシリティ(EFSF)を13年半ばまで存続させ、12年半ばから13年半ばまではESMとEFSFの両者によって財政危機に対応することとなった。これによって、4400億ユーロのEFSFに加えて、5000億ユーロのESMが新設されると、総額1兆ユーロ近くの資金規模の財政危機対応のセーフティネットができあがる。さらに、今回のEU首脳会議に際して、IMFからの金融支援のための融資として2000億ユーロが確保された。
このように、ユーロ圏諸国は、財政規律を強化し、財政再建を進めるための政策協調としての「財政安定同盟」の基本合意に留まっていることに注意する必要がある。言い換えると、アメリカにおける連邦政府と州政府との間の予算上の関係のような「財政同盟」(Fiscal Union)としての財政主権の統合までは進んでいない。
一方、1999年に単一共通通貨ユーロが導入されて、「経済通貨同盟」(Economic and Monetary Union)の第3段階にEUが進んでいたものの、これまでの段階では、財政移転を禁止するリスボン条約によってEUにおける財政統合は想定されていなかった。
財政統合が欠けた「経済通貨同盟」の問題点が指摘されていたことから、この「財政安定同盟」は、EUにおける経済統合の新たな段階に向けての動きにつながっていくであろう。
そして、「財政安定同盟」が将来において真の意味での「財政同盟」に向かって深化していくことになれば、通貨主権とともに財政主権をEUに委譲した、経済学者バラッサが著書『経済統合の理論』で言う「完全な経済統合」に到達することができるであろう。ちなみに、バラッサはこの著書で、自由貿易協定に始まり、関税同盟、共同市場、経済同盟、そして完全な経済統合(金融政策と財政策と社会政策の統一)へと経済統合の諸段階を整理している。
また、今回のEU首脳会議でイギリスがドイツやフランスなどのユーロ圏諸国の歩調に合わせなかったことが問題視されているが、EUの「経済通貨同盟」の第3段階、すなわち、ユーロの導入が成し遂げられていないイギリスが、さらに「通貨同盟」を超えて、「財政統合」に向かって経済統合の進化を進めるとは考えがたい。その意味で、イギリスのスタンスは、当然であろう。