DV妻との同棲
交際を始めてから約1カ月後のある日、彼女は、「私が住んでるところ、すごく便利が悪いんだよね。幸男ちゃん家はめっちゃ便利だよね」と、引っ越ししたいことを打ち明ける。
「じゃあ、うちで一緒に住む?」と橋本さんが軽い気持ちで提案すると、彼女は「住む!」と即答。「お父さんとお母さんにも手伝ってもらうから、一緒にご飯行こうよ!」。彼女はすぐさま実行に移した。
当日、緊張の初対面を果たすと、彼女の両親は温和でフレンドリー。終始和やかな雰囲気で引っ越しを終えると、夜は4人で外食を楽しんだ。
「笑顔で話をする娘を温かい目で見守り、耳を傾けるご両親の姿に、『娘をもてはやしすぎでは?』という微かな違和感を覚えましたが、当時の私は、『本当に自慢の娘なんだなあ……』と感心する気持ちのほうが勝っていました」
翌日、アルバイト帰りに橋本さんは、発売されたばかりの漫画を一冊買って帰宅。「ただいま」「おかえり」と笑顔で交わしたあと、橋本さんは今日一日の出来事を話しながら、カバンの中から新しい漫画を取り出した。
「何それ?」
突然、彼女が今までと打って変わった低いトーンでたずねる。
「これ? 今日発売の漫画。めっちゃ面白いよ! 全巻そろってるから読んでみる?」
橋本さんが無邪気に勧めると、彼女は無言で背を向け、自分の荷物の整理をし始めた。
橋本さんは、「あれ?」と思いながら、「何か怒らせるようなことをしたかな?」と頭をフル回転。「今日一日何してたの?」「お腹すいてない?」などと数分おきに話しかけても、彼女は何の反応も見せない。
「今まで恋人や友人とけんかになったり、険悪なムードになったりしたことはありますが、無視という手段を使う人はいませんでした。私はこの日、無視をされるというのは、こんなにつらいことなのか……と絶望的な気持ちになりました」
橋本さんは、無視をされる原因がわからないながらも、「まっすぐ家に帰らなくてごめんね」「漫画が嫌いだった? ごめんね」などと必死に謝った。
結局、彼女が怒って無視をし始めた原因は、約6時間後に「勝手にお金を使わないでくれる?」という彼女の言葉で明かされた。彼女は橋本さんが、「勝手にお金を使い、漫画を買ってきたこと」が気に入らなかったのだ。
橋本さんは衝撃を受けた。途端に、「自分の稼いだお金で買ったのになぜ? 同棲は始めたけど、まだお金のことについて何も決めてないよね?」とモヤモヤが溢れ出したが、当時の橋本さんは、「お金に対してしっかりした子だなあ」という気持ちでモヤモヤにふたをしてしまった。