もう1つは、ごくたまに起こるギックリ腰で「急性一過性」と呼ばれます。普段は腰の痛みなど気にしなくても大きな問題にならないことが多いですが、このギックリ腰だけは初期対応をしっかりすることが肝要です。その意味で、放置せずすぐに医者に診てもらうことが大切になります。
長引く慢性の腰痛も大きく2つのタイプがあります。1つはいつも何となく腰痛がある人のギックリ腰で「慢性腰痛の一過性増悪」と呼ばれます。急性、慢性合わせてギックリ腰への対処は極めて重要です。
もう1つは、いわゆる「慢性腰痛」で原因は複雑で多くの人が苦しんでいます。「急性痛と慢性痛の違い」は(図表1)をご覧ください。本稿では命に関わる急性の腰痛とギックリ腰について解説します。
急性腰痛の原因は分かりやすいです。主な原因は、骨折などのケガや病気、身体が傷ついたり腫れたりすることです。痛みは身体に対する警告システムです。何かがおかしいと知らせ、身体に有害なことが起こらないようにするのです。
CT検査などで診断することが有用です。手術などの治療で傷や腫れが治るとともに痛みも消えてゆきます。薬物治療が顕著に効くことも特徴です。
急性腰痛は“命の危機”を知らせるアラーム
「寝ていても目が覚める」ほどの痛みが急性の腰痛です。安静にしていられないというのは極めて危ない状態です。痛みで七転八倒するというのは、痛みに耐えかねて、楽な姿勢を探しているからです。慢性の腰痛のほとんどは寝ているときには痛みません。痛くて目が覚めるのではなく、目が覚めた時に痛むのが慢性の腰痛です。
もしも熟睡しているときに足の裏に画びょうを突き刺したら、飛び起きますよね。急性の腰痛はそれ以上の痛みで、全身麻酔などをかけないと眠れないような強い痛みです。
一方、慢性の腰痛では、痛みの刺激自体は画鋲の針1本分もないことが多く、ごく少量の睡眠薬で痛みを忘れ、眠れます。そのような小さな刺激でも慢性腰痛の方々が苦しむのは、大げさに反応したり、我慢が足りなかったり、ということでは決してありません。痛みの刺激自体がそれほどではなくとも、脳が痛みを増幅し意識を集中させるためです。
急性の腰痛は何らかのインパクトがあって始まります。椎体骨折でなければ悪性腫瘍(がん)、大動脈瘤、骨粗しょう症などが疑われます。一刻の猶予もありません。
すい臓がんや腎臓がんは、これらの臓器が背中に近いところにあるため背中に痛みが出ます。胃がんや肝臓がんではお腹に痛みが出ます。大動脈解離、大動脈瘤などの大動脈系の病気は、大動脈が脊椎のそばに位置するため初期症状が胸背部や腰背部の痛みとなって現れます。
これらはすぐに医者に行き精密検査をして原因を突き止めて、必要な治療をすべきサインです。