「緩むな。でも外出は別にいいからね」。本当に意味がわからない
安倍首相とそのブレーンの皆さんは、その「ワンメッセージ」をそもそも持っていたのだろうか。筆者の印象に最も残ったのは「緩むことのないようにお願いします」だったが、実はもうひとつ、強調されていたのが、「外出それ自体が悪いわけではありません」である。これは2回も繰り返している。「緩むな。でも外出は別にいいからね」。本当に意味がわからない。
ニュージーランドのアーダーン首相のメッセージは、外出規制が緩和された今でも、「Stay home, Stay to your bubble, maintain physical distancing」(家にいて、一緒に暮らしている人たちの中にとどまって、物理的距離をとって)。この短いフレーズをひたすら繰り返している。
いろいろ詰め込んでも、全部理解されるはずがない。話し手は、絶対に伝えたい「ワンメッセージ」を必ず決めておき、これがすべての人に届くようにするにはどうしたらいいのかを必死で考えなければならない。
「感謝」は10回言ったが、きちんと「ありがとう」と1回も言わず
安倍首相のスピーチを繰り返し読んでみて、ある一言がないのに気づいた。
「ありがとう」だ。
「みんな、歯を食いしばって、頑張ってくれて、本当にありがとうございます。皆さんの頑張りに、私は強く胸を打たれました」。本気で、自分の言葉で、そう呼びかけてもらえたら、われわれもちょっとは救われた気持ちになったかもしれない。
実際は、会見の締めくくりに立った一度、儀礼的に使われただけ。その代わりに、「感謝」という言葉は10回も登場している。「感謝申し上げます」「感謝いたします」というよそよそしい言葉をひたすらに繰り返す人は、たぶん、われわれと同じ世界には住んでいないし、同じ空気は吸っていない。
官僚の言葉もいらないし、他人行儀の言葉もいらない。聴衆と周波数を合わせ、同じ目線に立たなければならない。そして、「感謝」の安売りをせず、「魂の言葉」を一度でいいから、ぶつけてはくれないだろうか。