「ロジック」や「エビデンス」に欠けた、あみだくじ話法

首相の会見を聞くと、なぜこんなに「もやもや」するのか。

それは「自分の言葉ではない」からだ。読むことが100%悪いわけではない。コロナの感染対策で成功したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相も、手元の原稿を読むことが多い。

ただし、その印象はまったく違う。安倍首相の場合は2つの致命的な問題点がある。「いかにも読んでないふうを装って、実は読んでいること」と「最初から最後まで、原稿の通りに読むこと」である。

プロンプターを左右に2台置いて、いかにも記者に向けて話しているようで、実は記者も国民も見てはいない。アイコンタクトは聴衆との心の導線のようなものだから、この視線の不在は、直感的に聞き手に不快感を与える。

長年、企業トップのプレゼンをコーチングしてきたが、プロンプターを使う場面は限定的だ。もし原稿をそのまま読み上げたいのであれば、下手な偽装工作をせずに、手元の原稿を堂々と読み上げるほうがいい。

その際、誠意を伝えるには、ところどころで相手の目を見て、自分の言葉を話す場面がほしい。だから、冒頭のあいさつなどは原稿なしで、自分の言葉で語るのが鉄則だ。それができないなら、ロボットに代読させたほうがまだマシだ。

しかも今回の会見では、「ロジック」と「エビデンス」が大きく欠けていた。今回の会見は以下のような構成だった。

自粛の成果と国民への感謝⇒現状(まだ終息にはいたらない)⇒緊急事態宣言延長のお願い⇒事業者へのメッセージ⇒「新しい生活様式」の提案⇒「教育」対策⇒「経済」対策⇒これから政府がすること⇒改めて、ウイルスの怖さに関する解説⇒自粛を引き続きお願いすることに対する国民へのお詫びと感謝⇒……

過去⇒現在⇒未来、もしくは結論⇒根拠⇒事例⇒根拠、もしくは感染対策⇒経済対策⇒教育対策といった流れがなく、あっちこっちに話題が散らばっている。書き出してみると、ある程度の流れがあったことがわかるのだが、聞く側からすると現在地がわからず不安になる。次に何がくるのかわからない「あみだくじ」のような話法なのだ。

まずは「現状をご説明いたします」「感染症対策についてですが」「医療制度の構築についてお話します」などと、ところどころで「道標」を示しながら、ロジカルに組み立てていく必要があるだろう。

COVID-19危機による日本店の一時閉鎖通知
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「数字」を出すのはいいが、それを評価する基準は示さない

エビデンスとなる数字もあいまいだ。会見で出てきたのは、以下のような概数だった。

「1日当たりの感染者数は700名が200名程度、3分の1まで減少」
「実効再生産数の値も1を下回った」
「1万人近い方々が療養中」
「人工呼吸器による治療を受ける方は3倍」
「全国で毎日100人を超える人が退院」

数字を意識していたのは確かだろう。だが、その数字が多いのか少ないのかがわかりにくい。「1」を下回る再生産数とは具体的にどれぐらいの値なのか。1万人、100人と言われても、比較する対象がなければ、そのスケール感がわからない。