社会性とエンタテイメント性、両方の強度を持つ

デスゲームと(韓国)社会のしっかりとした接合──『イカゲーム』が大ヒットした最大の要因はやはりこの点にある。それは特段のひねりのある方法論ではなく、むしろ極めてベタなソリューションだ。しかし、それゆえに従来のデスゲーム作品になかった社会性の強度を持ち、一方で他の社会派作品には見られないエンタテインメント性(デスゲーム)の強度も持つことになった。

さらにグローバルに訴求した要因を探るならば、主人公を通して明確に格差社会を描いている点が挙げられるだろう。ギフンは、自動車メーカーをリストラされ、次に飲食店で失敗して多額の借金を抱えている。そして、作品の終盤ではこのゲームの黒幕が明らかとなって、より格差社会のコントラストが際立つことになる。

格差社会化と激しい競争にさらされている韓国

歴史を振り返ると、韓国は1997~98年に国家財政が危機的状況に陥る。IMF(国際通貨基金)の救済を受けたのでIMF危機と呼ばれるが、これ以降、韓国は新自由主義への転換を余儀なくされる。現在はBTSなどK-POPの人気で活気に満ちた雰囲気がある韓国だが、それもこれも国家が破産しかけた過去から出発した結果だ。

写真=AFP/時事通信フォト
2021年9月20日、国連本部で、登壇する韓国の男性音楽グループ「BTS」(アメリカ・ニューヨーク)

新自由主義経済への転換によって生じたのは、格差社会化とそれにともなう激しい競争だ。それらは『愛の不時着』や『梨泰院クラス』など韓国ドラマ・映画では必ずといっていいほど描かれる。それほどまでに、韓国では共有されて意識されている現実だ。

『イカゲーム』で描かれるデスゲームは、もちろん現実にはありえない。だが、それは韓国を生きるひとびとには厳しい競争のある現実のメタファーとして訴求している。