1週間後に再訪すると、ダルマのタイムカードが用意されていた。あれ? と思いながら、打刻した。「お手伝い」に来たと思ったら、働いた分のお金を払ってくれると聞いて、ダルマは喜んだ。その日は男性の研修生もいたのだが、もうすぐ研修が終わると言う。それを聞いて、疑問がわいてきた。

「あれ? 男がほかに誰もいないぞ。おばあちゃんたちはいるけど、おばあちゃんだけじゃ仕事にならないよな。私がいない時はどうする?」

その日、荒木さんから基本的な作業を教わったダルマさんは、「男手がなくて大丈夫なのか」と心配になり、帰宅する頃には「できるだけ手伝おう」と心に決めた。

写真提供=ダルマさん
小松菜を収穫する従業員の女性たち

富山を代表する小松菜生産者、荒木さんの歩み

それから、時間を見つけては荒木さんから小松菜栽培の手ほどきを受けるようになった。偶然にも、そこはゼロから農業を学ぶ上で最適な環境だった。

ダルマさんと荒木さん(写真提供=ダルマさん

大学の農学部で学んだ荒木さんは、温室ブドウの栽培を経て、回転が早く売れる見込みがある葉物野菜として小松菜に目を付けた。

全国の小松菜の出荷量は約10万トン(2019年)。荒木さんが調べた当時、産地としては茨木、埼玉、福岡、東京、群馬の上位5県が出荷量の5割超を占めており、富山県では小松菜の生産者が少なかった。そこで「富山県で一番になりたい」と小松菜のビニール栽培に乗り出す。

それからは、試行錯誤の日々。「野菜は土からできる」と毎年のように土壌の改良を進め、有機肥料を取り入れた。防虫対策を徹底して国の基準の3分の1にまで農薬を低減し、出荷する際には残留農薬ゼロにすることにこだわった。出荷量は月々異なるものの、年間を通した出荷も実現した。

甘みが強く、葉が肉厚で食感がしっかりとしていて、ナマでも食べられる荒木さんの小松菜は次第に注目を集めるようになり、某有名ホテルなど独自の取引先も拡がっていった。

質の高い小松菜を育て、直販まで手掛ける荒木さんは、農業についてほぼなにも知らなかったダルマにとってこれ以上ない教師役になった。

小松菜の匠が見初めた才能

それまでも若者の研修を積極的に受け入れてきた荒木さんは、ダルマに指導を始めてすぐに気がついた。この男には、才能がある。

「菜葉の収穫はすごくきめ細かい作業なんです。丁寧に扱わないと、菜葉が傷む。その場ではわからないんだけど、出荷して2、3日後に店頭に並んだら、ギュッと握ったところが傷んで黒ずむんです。それを避けるためには、菜葉をかわいがるというか、優しく、丁寧に扱いながら、なおかつ速く採る必要があります。男はこの作業が苦手で、女性のほうが向いていると思っていたんだけど、ダルマさんは日本の男性とは比べ物にならないくらいきれいな仕事をするんです」