富山県に外国人として初めて農家を継いだネパール人男性がいる。仏画師のダルマ・ラマさんは、ネパールで富山出身の日本人女性と出会い、子育てのために来日した。しかし、巡り巡って、「小松菜の匠」と呼ばれる人の弟子になり、農家を継ぐことになった。その激動の半生を、フリーライターの川内イオさんが取材した――。
※本稿は、川口イオ『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(文春新書)の一部を再編集したものです。
故郷と日本を「えごま」でつなぐ
富山県射水市の「葉っぴーFarm」。小松菜の加工場がある大きな家屋の2階はギャラリースペースになっていて、壁には色鮮やかな仏画がいくつも飾られている。それはとても繊細かつ優美な絵で、思わず見入ってしまう。
この仏画を描いたのは、ネパール人のダルマ・ラマ。株式会社「葉っぴーFarm」の2代目だ。
現在、日本では3万人を超える外国人が農業に従事している(2018年時点/厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」参照)。そのなかでも、ダルマは極めて異色の存在だろう。
もともとはネパールで仏画師をしていたが、日本人女性と結婚して来日。たまたま知り合った「葉っぴーFarm」の前代表のもとで手伝いを始めたところ、働きぶりが評価されて2017年に事業を継承。小松菜の加工場を作るなどして販路を大きく広げるだけでなく、故郷のネパールにも法人を作り、無農薬栽培したえごまを日本に輸出している。
やり手の経営者であるダルマは、パートで働きに来ている近隣の女性たちや母国から研修に来ている若者たちと一緒に朝8時からビニールハウスで農作業もする。「すごく忙しそうですね?」と尋ねると、彼はにっこりほほ笑んだ。
「すっごく忙しい! 朝でも夜でもいつでも仕事のことしかない。それでも体が疲れてないってことは、やりたいことをやっているからでしょう。私はお父さんから、みんなのために生きなさい、みんなのためになることをやるのが本当の人間だよと言われて育ちました。日本で学んだことをネパールで活かす、ネパールで学んだことを日本で活かす。それが自分らしく生きるということだと思うんです」