中国EVを採用する日本の物流大手はSBSだけではない。SBSの発表からさかのぼること半年前の2021年の4月、佐川急便は中国EVを導入していく方針をクロステックのベンチャーASFと合同で発表した。

SBSのフォロフライと同様に、このASFが、佐川が導入する中国EVの設計を担当する。プロトタイプはASFが企画・開発・製品管理などを行う一方で、製造を手掛けるのは広西汽車集団という中国の企業が担う。このケースにおいても、ASFが最終納品者になるという意味で「日本車」になるが、実態は中国製のEVとなる。

なお、導入台数は、佐川は宅配事業で使っている全軽自動車7200台をEVに切り替える方針だ。佐川グループの全車両台数が2万7000台なので、3割近くが実質中国製EVに置き換わる。予定では2022年9月から首都圏などの都市部を中心に佐川急便の営業所へ納車される。1年以内にこのEVが日本の物流シーンに登場することになる。

物流企業が中国EVに手を出さざるを得ない事情

日本の物流大手がEV化を急ぐのは、背に腹は代えられない事情がある。

現在、世界的に脱炭素化が進んでいるが、「ESG投資の拡大」が進んでいる。環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資を指す。企業は環境などに配慮する取り組みを行い、ESGスコアを上げなければ投資を呼び込めなくなるからだ。

加えて、TCFDと呼ばれる気候関連財務情報開示の動きも拡大しており、日本では6月にコーポレートガバナンス(企業統治)コードが改定。プライム市場に移行する企業はその開示を行う方向性が初めて盛り込まれるなど、企業は脱炭素化のプレッシャーにさらされている。CO2削減の観点では、サプライチェーンの上流も下流も不可欠で、「物流」という項目も入っている。つまり、物流企業は自社の企業価値の観点からも、クライアント側の要請という意味でも脱炭素転換は必要不可欠な取り組みとなっている。

前掲の報道によるとSBSグループは、ラストワンマイル輸送車両を全てEV化する狙いについて、政府が宣言した2050年カーボンニュートラルの実現を達成するには、現状のままで排出抑制策を講じても限界があり、車両を全てEV化すればよいとの結論に至ったと答えている。当然の回答だが、しかも、燃費よりも電費の方がよいという特徴があるため、実はランニングコストの面では価格優位性が出てくる。

そこで重要になるのが、いかにして初期投資のコストを削減できるかという点だ。日本の商用車EVはまだ高く、物流企業のコスト意識に照らすと選択肢になりづらい。一方で、物流企業は何かしらの方法で脱炭素転換を図らなければならない。そこで選択肢として浮上したのが、日本企業を「ファブレス企業」にし、OEMは中国企業にして新車両を導入する方法だった。