今回のSBSが導入するEVの販売額は1台380万円とガソリン車と同水準だ。コスト面は遜色ない。仕様についても、ラストワンマイル仕様として航続距離300キロメートルを確保できる機能を持つバッテリーを搭載し、普通免許で運転可能な車種としては最大積載量となる。高スペックだ。
こうなると物流企業とすれば、最終納品者が日本企業であれば問題ないのでは、と考えるようになっても致し方ない。コスト削減しつつEV化を進める現実的な最適解というわけだ。
水平分業が進めば、日本の自動車産業は歯が立たない
安くて、高スペックなEVが手に入ってよかった、という話だけでは終わらない。日本の主要産業である自動車産業にとって極めて大きな問題を秘めているからだ。それは単に「中国製のEVが日本で走る」という問題ではない。より構造的な深い問題である。
それは、今回の事案が車製造の水平分業化を加速させる恐れがあるということだ。
日本の自動車産業は、他国のメーカーと同様に「垂直統合」というビジネスモデルだ。技術開発、生産、販売、サービス提供などの異なった業務を単一の企業(グループ)がすべて担う仕組みだ。
EV車両は、内燃機関を持つディーゼル車に比べて部品数が少ない。構造も単純化されるために、水平分業モデル(スマホのように開発と生産を分担するモデル)は出てくるだろうと言われてきた。実際、世界でもソニーがEVの受託生産を依頼したオーストリアのマグナ・シュタイヤー社をはじめ、そうした動きはある。台湾の鴻海もEVの水平分業化の中でチャンスをうかがっている企業の一つである。
自動車産業の水平分業が進めばどうなるのか。伝統的な自動車企業が行っている垂直統合モデルが崩壊し、水平分業で力をつけたOEM企業が出てくる。車のEV化はハード面だけの話ではないので、グーグルやアップル、中国の百度といったIT企業が自動車産業に参画することを許すことになる。
商用車ではあるが、中国EVの日本上陸が、日本の自動車産業の構造そのものを破壊しうる「蟻の一穴」になりかねないのはこのような理由がある。