国産車のシェアを奪われるだけでは済まない

脱炭素時代に物流大手会社が車両のEV化を進めること自体に驚きはない。注目すべき論点は、このEVが中国国内で、中国企業が組み立てを行うという点にある。

これではもちろん、現行法上、中国で流通している仕様では日本の保安基準はクリアできない。例えば、中国で大ヒットしている50万円のEV、宏光「MINI EV」であっても日本の保安基準を満たさない限り、日本には上陸できない。基準をクリアしようとすれば安全性能を高めるなどの改良が必要で、50万円ほどの低コスト車両ではそもそも無理であろう。

それでは、なぜ今回、中国EVが日本に上陸できたのか。ポイントは、EVの最終納品者が日本企業となっている点だ。

SBSから依頼を受けてEVトラックの導入を手掛けるのは、フォロフライという京都大学発のEV開発スタートアップだ。この会社は国内で初めて「ファブレス生産」、つまり工場を持たず海外への委託・生産で宅配用EVのナンバーを取得。その実績から、今回フォロフライとSBSが組むことになった。

フォロフライが進める「ファブレス生産」とは、自社で設計は行うものの、生産主体は別企業に委託する形態を指す。

半導体の生産などでは、ファウンドリー、ファブレスという言葉は頻出であるが、ファウンドリーが受託生産を請け負うのに対して、ファブレスは自社工場を持たずに、生産をファウンドリーなどに委託する、俗にOEM(他社ブランドの製品を製造すること)と言われる形態をとる。中国EVが日本上陸を可能にしたのは、こうした生産側の事情がある。

街の交通
写真=iStock.com/chinaface
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中国生まれの“なんちゃって日本車”

SBSが発注した小型EVの生産を請け負うのが、冒頭で紹介した東風汽車集団だ。設計はフォロフライが行い、日本の保安基準を満たすように指示を出す。生産は東風汽船が手掛ける。名目上は“日本ブランド”になるが、報道のとおり実体は中国EVということになる。

報道によれば、このEVは日本の道路運行上の保安基準をクリアし、国土交通省からナンバーを取得した。年内には性能試験が行われるという。その結果を踏まえ、22年から毎月数百台のペースで納入され、続々と実質中国製のEVが日本に上陸する。ネットショッピングで注文した商品を届けに、このEVが読者の自宅にやってくる日も来るだろう。