中国EVは“地獄の案内人”
テスラのEV車両がソフトウェアの面でも評価をされているように、これからは「コネクテッドカー」としての性能も問われるようになる。グーグルなど、優れたOS構築ノウハウをもつIT企業が、従来の自動車メーカーにはないバリューを発揮し、差別化した競争力のある車を出しても何ら不思議ではない。
機会をうかがっているのはアップル社も同じだろう。すでに報道されているように、アップル社が自動車分野に本格参入するのは既定路線とも考えられている。中国企業とOEM提携するかどうかは現時点では不明だが、元来、水平分業モデルを得意とするアップルにとっては、車の水平分業化は渡りに船である。
スマートフォンを作るように自動車をつくられては、日本の自動車産業としてはたまったものではない。ソフト面はすでにグーグルのOSを導入する方向で、日産もホンダも舵を切っているように差が明確であり、日本メーカーでは歯が立たないからだ。
水平分業モデルを許すことは、日本勢が長年維持してきた聖域の扉を開けることになる。国内市場に登場した中国EVは、日本勢のシェアを奪うだけでなく、ビジネスモデルの根本部分への脅威であると断言できるのだ。
IT企業が自動車産業に本格参入した場合、日本の自動車メーカーは苦戦を強いられることになるだろう。下請け企業として、受託生産をする側に回ってしまうことも想定される。この構図は、日本がデジタル産業において苦杯をなめたのと同じであると言ってもいい。
「脱炭素を進め、国滅ぶ」では本末転倒だ
このように考えると、中国EVが上陸したと騒いでいるうちに、主体が巨大IT企業に置き換わり、OEM企業と提携して国内市場を席巻する恐れがあるという現実を十分に警戒する必要がある。
もちろん脱炭素を意識しなければ企業としてやっていけない。物流企業の事情は理解できる。自動車産業におけるファブレス、OEMの構図は放っておいても起きるだろうし、そもそもサプライチェーンを効率化した結果だという指摘もあるだろう。また、日本の商用EVが価格競争力を持っていれば済むという指摘はもっともだ。
ただ、こうした楽観的観測が、結果として自分たちのクビを絞めることになるのではないかと筆者は危惧する。生き残りをかけて脱炭素を全力で進めた結果、国の主力産業が滅ぶという事態になれば、それこそ本末転倒ではないだろうか。