軽視された気候変動対策の“副作用”
合成の誤謬、という言葉がある。ミクロの視点では合理的でも、マクロになるとバランスを欠きマイナスの効果が大きく出るという意味だ。気候変動対策は確かに重要だが、それを重視し過ぎると、経済全体にとってマイナスが大きくなる。気候変動対策を重視するがゆえにエネルギー危機に陥ったヨーロッパは、まさにそうした状況にある。
気候変動対策は確かに重要だが、問題はその手段である。性急に進めようとすればするほど、副作用も一気に出てくる。エネルギー危機を受けて、ヨーロッパの中でも悲鳴を上げる国が出始めている。例えばスペインは欧州委員会に対して、EU全体としてエネルギー価格の上昇に対する対応策を取るように訴えているが、反応は芳しくない。
問題がヨーロッパにだけで留まればいいが、このエネルギー危機は結局、世界全体を巻き込むことになる。コロナ禍をようやく脱しつつある世界経済だが、半導体不足に加えて、今後はエネルギー不足という新たな供給制約に直面することなるだろう。特に北半球はこれから冬季を迎え、エネルギー需要がさらに高まるだけに、警戒される動きだ。
重要なのはバランス……「自縄自縛」に陥ったヨーロッパの教訓
EUは気候変動対策で覇権を握ろうと躍起になっているが、それゆえに「自己目的化」の罠にはまってしまったきらいが否めない。それにエネルギー危機という形で気候変動対策のコストが顕在化した以上、ヨーロッパの環境政党がさらなる気候変動対策の必要性を説いても、有権者の支持が離れてしまう展開が予想されるところである。
日本は良くも悪くも慎重だ。ヨーロッパのような「自縄自縛」に陥らないためにも、エネルギー政策とのバランスを踏まえたうえで、気候変動対策を推進していくべきだ。原子力も石炭も問題はその使い方であり、使うことを禁じることで生まれるコストを無視しては、逆に気候変動対策など本質的に進みようがないのではないだろうか。