天然ガス価格の急騰を招く排出権取引制度
ヨーロッパにはEU ETSと呼ばれる温室効果ガスの排出権取引制度が存在する。市場メカニズムを通じて温室効果ガスの削減を図るものとして欧州委員会が期待を寄せる同制度の下、温室効果ガスの排出権価格は文字通り「うなぎ上り」となっている(図表3)。温室効果ガスの削減が迫られる中で、排出権の買い占めが進んでいるためだ。
まさに欧州委員会が作り上げた「官製相場」によって、ヨーロッパの排出権の価格は急騰しているが、その上昇は今後も続くと予想されている。こうした動きもまた、温室効果ガスの排出が少ない天然ガスの需要を急増させる要因となっている。つまり発電業者にとっては、排出権を購入するよりも天然ガスを購入した方が低コストで済むからだ。
気候変動を抑制するために多少のコストがかかることは、ある意味で当然だろう。とはいえ、足元のヨーロッパのエネルギー危機は、欧州委員会による戦術の設計ミスによって引き起こされた「人災」という側面が大きい。つまり気候変動を抑制するという戦略目標そのものは良くても、それに至る戦術の拙さが顕著だということである。
例えば、このヨーロッパ発の気候変動対策の流れの中で、石炭を使うことはタブー視されている。しかし石炭もまた化石燃料であり、最新の技術を用いれば発電に当たって発生する温室効果ガスの量をかなり抑えることができる。にもかかわらず、その利用は絶対悪であるかのような論調で、石炭の利用を否定するような動きが強まっている。
なお炭田は一度閉鎖したら二度と使うことができない。ほかにエネルギー源がないから石炭を使おうと思い立ったところで、炭田を閉鎖していたら元も子もない。途上国の多くが石炭火力発電に依存している現状もある。本来ならば、そうした石炭をどう戦略的に利用していくかが、気候変動対策を推し進めるうえでの最重要課題となるはずだ。