いまだに「感染状況の全容」を把握できる仕組みがない

9月27日、厚労省は、新型コロナに感染しているかどうかを自宅で調べることができる医療用の「抗原検査キット」について、特例的に薬局での販売を認める通知を自治体などに出した。新型コロナの国内蔓延から1年半である。政治の圧力に屈したともいえるが、PCR検査を使った疫学調査は頑なに「独占」している。民間でもPCR検査が広がっているが、医師が必要と認めた場合以外は自費で、3万円前後の費用がかかる。医師が必要と認めた場合というのは、感染が疑われる症状が出ている場合や、他の病気での入院や検査のためだけで、陰性を証明するためだけの検査は基本的に認められていない。

しかも、自費でPCR検査を受けてもそのデータは国に行かないので、全容を把握するためのエビデンスとしては寄与しない。ワクチンを接種したかどうかの記録を国が管理するシステムがようやく稼働したので、感染が判明した人がワクチンを打っていたかどうかは辿れるようになった。だが、陽性者が出た周囲でどれくらい感染者が広がったか、ワクチンを打った人と打っていない人がいた場合、感染率に差があったか、などは簡単には把握できない。そもそもほとんどのケースで「濃厚接触者」と保健所は認定しないから、PCR検査が行われていないのだ。

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新首相に求められる「エビデンス」と「説明」

8月末から9月にかけて、国内では新たな変異がある新デルタ株が初めて確認されている。日本国内で変異したのではないかとも見られているが、感染源を把握して封じ込めるには幅広い検査が不可欠になる。感染拡大の把握が遅れれば、6月20日の解除失敗と同様、「第6波」の感染爆発を引き寄せることになりかねない。

自民党総裁選挙では岸田文雄氏が新総裁に選ばれ、首相に就任する。政策発動が「後手」に回らないためには、状況を正確に把握する「エビデンス」の収集が不可欠だ。そしてそれを正確に国民に伝える「説明」が必要になる。これは新型コロナ対策だけではなく全てに通じる。選挙を前に、歓心を買う「良いことずくめ」の政策ばかりが打ち出される可能性もある。だが、そんな場当たり的な対応を国民は新首相に求めているわけではないだろう。

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