ビジネスを取り巻く環境が大きく変化し、従来のピラミッド型組織では、業績が上がりにくくなってきた。そういう状況で注目されているのが、リーダーがサポート役となり、「スタッフが主体的に働く」組織である。このやり方に変革し、業績を大きく伸ばした地方金融機関がある。長野ろうきん茅野支店だ。中位クラスだったのが短期間でトップクラスに浮上、その後も好調に推移している。現在長野東支店長を務める宮田直樹氏が、前任の茅野支店長時代にどんな改革を行ったのか、その経緯と考え方を聞いた。(第2回/全2回)
画像提供=長野ろうきん
宮田が茅野支店長を務めていた時代、主体的に働く意識に目覚めた「なでしこユニット」のメンバー。「自走する集団」となって、キャンペーンなどで成果を上げ続けた。

「失敗してもいいんです」

1回目では支店の改革をどう進めたか、お話しました。ビジョンを明確に掲げ、支店のベクトル合わせを励行。それと並行して、職員が主役の逆ピラミッド型組織に転換、提案制度などを取り入れて、やる気に火をともす試みを続けました。

2回目では、支店の職員が主体的に働くようになり、それが目覚ましい業績アップにつながっていったことを、いくつかの事例を基に紹介しましょう。

職員が主体的に働くように変わったことが、早くも支店長に就任した年から成果に出始めました。その1つが、女性職員だけで構成するチーム「なでしこユニット」の活動です。

この活動は、補助的な業務に従事することが多かった女性職員が、リーダーを決めることから、企画立案・プロモーションまですべて自分たちで実行し、予算を上回る成績を残した、という意味で画期的でした。また、「預金」「融資」といった業務体制の枠を超えて協力体制が出来上がった成功例でもありました。

「なでしこユニット」とは、女性向けに開発した金融商品「ろうきんchou-chou(シュシュ)」を企画・販売推進をするために、各支店に編制されていました。「ろうきんchou-chou」は、店頭金利に0.1%金利を上乗せした「こども積立」や女性向けのローン商品も取りそろえていて、この販売を担うのが「なでしこユニット」です。

営業統括部時代に商品開発に関わっていたこともあり、もっと売れる、活性化できるという思いがありました。そこで、「なでしこユニット」のメンバーにこう呼びかけたのです。

「経費のことは気にせず、あなたたちがやってみたいプランを出してください。失敗してもいいんです、責任は支店長の私がとりますから」

メンバーで幾度となく話し合って、年間販促プランを練り上げてきました。よくできたプランでした。それでも、私は「それで、どうしたいの?」と聞き返しました。

当事者に狙いと効果を聞き返すことで、目的を見失っていないかを確認し、OKを出したあとは、口出しをしません。「それで、どうしたいの?」と聞き返すのが、支店長として果たすべきチェック機能、あとは職員の主体性に委ねるというマネジメントです。

私のゴーサインを受けて、「なでしこユニット」は走りだしました。ろうきんのパートナーである企業や団体の労働組合の協力を得るべく、窓口の「書記さん(女性が担当)」と交流を深めていきました。先方の「書記さんから」の要望を吸い上げる一方で、プラン実施に協力してもらえるよう働きかけていく。販促キャンペーンでは、金融商品の魅力に共感した組合の「書記さん」が、組合員にむけて「家計の助けになって、女性にはありがたい金融商品です」とアピールしてくれました。こうした協力が得られたことで、販促キャンペーンは大成功。彼女たちが設定した目標を上回る成績を残したのです。

実のところ、当初の3倍に膨らんだ「ろうきんchou-chou」の販促費用を支店経費からやり繰りしたくらいで、支店長の私が手助けする場面はまったくありませんでた。

「自走する集団」と化した「なでしこユニット」のパワーには、心底驚きました。茅野支店に新たな営業パワーが誕生したと言ってもいいでしょう。この実績が評価されて、茅野支店の「なでしたユニット」は、「ベストユニット敢闘賞」を2016年に受賞。その後も数年にわたって受賞していくことになります。

ほかにも、成果を挙げたのがカードローンです。責任者は支店長や役職者からの「指示を待つことなく」、自ら営業プランを立てて、活動を展開し、着実に実績を上げていきました。組合の方と連携し、市中の金融業者から借り入れている組合員の方に、金利負担が少ないろうきんのカードローンに一本化していただくよう、借り換えを促していくのです。その数字が評価され、2016年はカードローン特別表彰を受賞しました。