ビジネスを取り巻く環境が大きく変化し、従来のピラミッド型組織では、業績が上がりにくくなってきた。そういう状況で注目されているのが、リーダーがサポート役となり、「スタッフが主体的に働く」組織である。このやり方に変革し、業績を大きく伸ばした地方金融機関がある。長野ろうきんの茅野支店だ。中位クラスだったのが短期間でトップクラスに浮上、その後も好調に推移している。現在長野東支店長を務める宮田直樹氏が、前任の茅野支店長時代にどんな改革を行ったのか、その経緯と考え方を聞いた。(第1回/全2回)
地方金融機関の将来を見据えて、ピラミッド型組織から「スタッフが主体的に働く」組織への転換を推進しているのが、常務理事西澤順一(右)。長野東支店長として改革を進める宮田直樹(左)。
撮影=大井川茂兵衛
地方金融機関の将来を見据えて、ピラミッド型組織から「スタッフが主体的に働く」組織への転換を推進しているのが、常務理事西澤順一(右)。長野東支店長として改革を進める宮田直樹(左)。

支店長を頂点とする組織を変える‼

2020年4月から長野県の金融機関、長野ろうきん(正式名称・長野県労働金庫)長野東支店支店長を務めています。長野東支店は県庁所在地の長野市に位置し、住宅ローンを専門に扱うローンセンターも備えた旗艦店。前任者が奮闘して業績を上位に引き上げたのを、トップクラスにまで持っていくのが、私のミッションです。

ただし、やみくもに業績を上げればいい、というのではありません。目指すのは、スタッフ(長野ろうきんでは「職員」と呼ぶ、以下・職員)が主体的に働き、コミュニケーションや部門間の連携がいい組織になること。それによって、従業員満足度とお客様満足度が向上し、結果として業績がアップしていく。支店長を頂点とする指示命令型組織からの転換、と言ってもいいかもしれません。

この考え方は、前任の茅野支店で私が実践したことがベースになっています。中位クラスだった茅野支店が、職員が主体的に働くように変わったことで、業績が大幅にアップ。「総合評価」という基準でみると、2年目と3年目は2位の「総合優秀店」、支店長最後の年となる4年目にはトップの「総合最優秀店」になることができました。

茅野支店でどんな改革をしたのか。その話をする前に、ろうきんとはどういう金融機関なのか、説明しておきましょう。

ろうきんは労働金庫が正式名称。労働組合や生活協同組合などがお互いを助け合うために資金を出してつくった協同組織で、1950年に設立されました。現在は全国でエリア別に13のろうきんがあります。その1つが長野ろうきんで、長野県内に本店と18の支店を構えています。

銀行や信用金庫などの金融機関と大きく違うところは、企業融資を行っていないことです。融資は個人向けの住宅ローンが大きなウエートを占め、あとは自動車・教育・育児など生活まわり関係などです。営利を目的としない金融機関ですが、市場の競争原理の下で金融業務をしていますし、また、組合員が必ずしも「ろうきんファースト」で利用してくださるとはかぎりません。地方経済が長期的に縮小するなかで、どう生き残っていくのか。それが重要な課題となっていますが、実は長野ろうきんでは、2012年ごろから再生に向けて営業改革を進めてきました。本部で営業統括部次長をしていた私に、支店改革の成功モデルをつくれ、と白羽の矢が立ったのです。

改革推進役の常務理事西澤順一が、宮田の茅野支店長赴任の経緯を説明する。

「長野ろうきんのビジョンを再設定するなど、営業改革を進めてきましたが、既存のものを変えるには時間がかかります。営業最前線の支店で成功事例をつくることで、改革をスピードアップするには、と考えました。そこで、営業改革プランづくりのまとめ役を務めて目的をよく理解している宮田を支店長として送り込むことにしたのです。職員が主体的に働くことで、従業員満足度とお客様満足度が上がり、それが業績に反映される、そんな支店をつくってほしい、と」