するとある日、友人の知り合いで初めて会ったばかりの人から「イベントみたいな感じでおはぎ売ってみたら?」と言われた。

以前の森さんなら「やってみようかな」「やってみたいですね」と曖昧に答えていたかもしれないが、その時は「やります!」と即答。すると、とんとん拍子で心斎橋のカフェでイベントを開催することに決まった。

納得がいくまで試行錯誤を重ねる日々

スピーディーな展開に舞い上がった森さんだが、すぐに我に返った。

世の中に溢れているあんこと黄な粉のおはぎのイベントをしても、誰が食べに来てくれる? 食べたことない、見たことないおはぎをつくらなきゃ、誰も来てくれへん。帰宅した森さんは、それから思いつく限りのおはぎの案を書きだし、試作を始めた。

頭のなかであれこれ考える前に、手を動かした。見た目の目新しさだけじゃなく、あんこの味も研究を重ねた。

例えば、おはぎはあんこともち米にかなりの砂糖を入れるのだが、それはあんこを日持ちさせるため、もち米の柔らかさを保つためという理由がある。そういうつくり手側の都合ではなく、素材の風味や香りがいきる、自分がおいしいと納得できる甘さを出すために、試行錯誤した。

撮影=川内イオ
おはぎのもち米部分
撮影=川内イオ
もち米をあんこで包む

たくさんの人に来てもらいたいからと、夫婦でイベント告知のハガキ(DM)もデザイン。自分がいつも通っているショップに「私、おはぎのイベントしようと思ってて、DMを置かせてもらえませんか?」と訪ね歩いた。

イベントと路上販売で大人気に

2009年12月、初めてのイベント。自分で食べても「おいしい」と自信を持って提供できるおはぎを用意した。

定番のあんこと黄な粉に加えて、みたらし、くるみ、ほうじ茶など新作を加えた計8種類。どれもひとつ百数十円。雑穀を使い、甘さは控えめにして、彩りを鮮やかに。女性でも食べやすいようにと、赤ちゃんのこぶしほどの大きさにまとめた。

撮影=川内イオ
赤ちゃんのこぶし大の丸いおはぎ

オープンと同時に友人、知人、たくさんの人が来て、200個用意したおはぎが見事に完売。そのうえ、DMを置かせてもらったお店の店員さんが森さんのおはぎを一瞬で気に入り、天神橋にあるカフェでイベントをしませんか? と誘われた。

もちろん、返事は「やります!」。

年が明けて1月31日に天神橋で開催されたイベントも、大盛況。320個のおはぎと、小さなどら焼き50個が売り切れた。この時もDMをつくり、それを置かせてもらったショップのスタッフさんが買いに来てくれた。

そこで今度は、神戸でアクセサリーを販売しているショップの店員さんから、「年に2回、マルシェやってるんですけど、出店してもらえませんか?」と声をかけられた。

まさに、数珠つなぎ。しかも、森さんはそのショップのアクセサリーが大好きで、結婚指輪もそこでつくったものだ。

そこのマルシェに出店できることが嬉しくて、新しいDMを持って夫婦で挨拶に行った。その時、もともと顔見知りだったショップの社長が、DMを眺めながらこう言った。

「目をつぶったらお店が見えるから、早くオープンしたほうがいいよ」