2021年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。ウーマン部門の第5位は――。(初公開日:2021年1月6日)
大阪の「森のおはぎ」は最大で1日3000個のおはぎを売る人気店だ。店主は大阪芸術大学を卒業後、服飾デザイナーをしていたが、ふとしたきっかけから、おはぎ作りを始めた。フリーライターの川内イオ氏は「独学から生まれたのは、小ぶりで品のある、カラフルなおはぎ。これが道行く人たちの心をとらえた」という――。

※本稿は、川内イオ『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

行列のできるおはぎの店

大勢の人でにぎわう大阪駅から阪急電鉄宝塚線に乗り、25分。

岡町駅で降りると、そこにはのんびりとした空気が流れていた。駅前から豊中市役所まで続く、昔ながらの雰囲気の桜塚商店街。地方では閉店したお店ばかりのシャッター商店街が拡がっているけど、ここは小さなお店が肩を寄せ合い、地域の生活の場として息づいていた。

桜塚商店街
撮影=川内イオ
大阪府豊中市の桜塚商店街

目的地は、商店街の一角に小さなお店を構える森のおはぎ。

ある日、たまたま手に取った『週刊文春』に「おはぎ春の陣」という特集ページがあり、いくつかのおはぎやさんが取り上げられていた。そのなかで、ひとめ惚れしたのが森のおはぎだった。小ぶりで品のある、カラフルなおはぎに惹きつけられた。

子どもの頃から今に至るまで、いわゆる普通のあんこと黄な粉のおはぎしか食べたことのない僕には、どんな味がするのか見当もつかなかった。

気になってググってみると、関西ではさまざまなメディアでたびたび取り上げられている行列のできる人気店で、豊中市にある本店のほか、関西一の歓楽街とも称される大阪の北新地にもお店を出していた。しかも、ひとりの女性が独学で始めたとある。

おはぎに行列⁉

北新地にも進出⁉

ますます興味が募った僕は、その女性、森百合子さんの話が聞きたくて、某日、大阪に向かったのだった。

その日は夏のような日差しで、商店街のアーケードを抜けると、気持ちのいい青空が広がっていた。スマホのマップを見ながら森のおはぎの店を探す僕のすぐ横を、ランニングシャツ姿のおじいちゃんが自転車で走り抜けていった。

訪問したのは月曜日で、森のおはぎの定休日。

森さんはお店の工房で、スタッフの皆さんとおはぎをつくっていた。

こんにちは! と挨拶をかわし、すぐ隣りのカフェへ。

白い割烹着のままの森さんに、「今も現場でおはぎをつくっているんですね」と尋ねると、「はい、そうです」とニッコリ微笑んだ。

割烹着姿の森さん
撮影=川内イオ
割烹着姿の森百合子さん