正しいネット利用の音頭を取るのは日本

【村井】WWW(World Wide Web/ワールドワイドウェブ)ができて約30年。これまではデメリットを取り上げられることも多かったけど、さっきのネズミ講の話と一緒で、人間って最終的には自分たちにとって“良いこと”“豊かにすること”に向かっていくんじゃないかと思っているんだ。そして、その「リーダーシップをとるのは日本じゃないか」という期待がある。というのも、例えば、海外で大地震やハリケーンなどの災害が起きると、お店の品物を略奪したり暴動が起きたりすることが多いよね。

【竹中】お店のガラスを割って店内に入ったり、メチャクチャになってますよね。

【村井】でも、2011年の東日本大震災の時の日本は略奪や暴動がほとんどなく、支援物資の配給をきちんと整列して待ったり、助け合いの精神が発揮されたりしていた。あと、俺、この間、経済産業省の前で財布を落としたんだよ。そうしたら、ちゃんと交番に届いていたの。もっとすごいのが、これは10年ぐらい前の話なんだけど、ドイツから来た教授が自転車で恵比寿を走っていたら20万円くらいの札束を落としちゃったの。

【竹中】20万円の札束ですか?

【村井】そう。それで彼女は大泣きしちゃってさ。でも、近くの交番にその20万円の札束がちゃんと届けられていた。それですっかり感動して「私はもう日本から離れない」「これからは、日本のために私は働く」って宣言していた。まあ、これは極端な例だけど、インターネットのこれまでの30年は、通信速度がどうとか、効率がどうとか、それこそ誹謗中傷がどうとか言っていたけど、これからの30年は「良いことに使おうよ」という流れになれるんじゃないのかな。

【竹中】日本文化の影響で、それが起こるかもしれない、と。

【村井】だとしたら、日本の責任は大きいよね。逆にいうと「これからはインターネットを使って良いことをして生きようよ」というのを日本がリーダーシップをとってやれれば気持ちいいじゃん。「他人のことなんか考えずガツガツやろうぜ」って世界を引っ張るより全然、格好いいと思うだよ。なぜかというと、今、インターネットアブユーズ(internet abuse)が問題になっていてね。

【竹中】インターネットの悪用、濫用ですね。

【村井】「インターネットを使って悪いことをしてやれ!」っていうので、今、病院が困っているらしいんだよ。「ワナクライ(WannaCry)」をぶつけちゃえって。

【竹中】ワナクライって「ワーム型のランサムウェア(身代金を要求する不正プログラム)」ですよね。

【村井】うん。コンピュータに侵入して、システムやデータなどをロックして、ロックを解除したければビットコインで身代金を払えっていうやつ。2017年にイギリスの病院がやられたんだ。

【竹中】2020年11月にはゲーム会社大手の「カプコン」がランサムウェアで攻撃されて、身代金を要求されたというニュースもありましたよね。

【村井】ただね、日本の病院は幸か不幸かインターネットの導入がすごく遅れている。だから、攻撃されても被害が少ないらしい。

村井純、竹中直純『DX時代に考えるシン・インターネット』(インターナショナル新書)

【竹中】それは……ちょっと面白い(笑)。

【村井】「コンピュータウイルス」っていうのは、そのコンピュータを勝手に動かしたり、最近は個人情報を抜いたりするのが多い。それに対してランサムウェアの「ワーム」はミミズみたいにコンピュータを渡り歩いて、データをロックしたり、暗号化したりする。それで、ロックや暗号化を解きたかったらトレース(追跡)できないビットコインを払えと要求してくる。昔のウイルスはコンピュータを壊したり、情報を流出させたりしていたんだけど、最近では「あなたのコンピュータはもう使えません。使いたかったら対価を払いなさい」って変わってきた。

【竹中】アブユーズのビジネスモデルにも革命が起こったんですね。

【村井】そう。もともと「濫用」の意味は、海外の大統領のようにツイッター(Twitter)で発言しまくって世間を混乱させたりすることとかだね。ツイッターを作ったのは、あなたのためではないんですよって。

【竹中】そうですね。

【村井】アブユーズの反対は「プロパーユーズ(proper use=正しい使い方)」。でも、今の時代なら「エシカルユーズ(ethical use=倫理的な使い方)」かな。ユーザー(user)はそもそも「使う人」で、今は「正しく使う」ことを求められるようになってきた。だから、SNSも良いことに使ってほしい。例えば民主主義を支えるためとか、何か事件が起こったらインスタグラム(Instagram)に真っ黒な写真をアップするとか。

【竹中】レディー・ガガのキュレーションで、2020年4月にオンラインチャリティコンサート「One World:Together at Home」が開催されたんですよ(ポール・マッカートニー、ザ・ローリング・ストーンズ、スティーヴィー・ワンダー、セリーヌ・ディオン、エルトン・ジョンらが出演)。それで約137億円の寄付金が集まり、新型コロナ対策のために充てられたそうです。あのコンサートはインターネット発で全世界が一体化したような感じで、1985年の「ライブエイド(Live Aid/アフリカの難民救済を目的に開催されたチャリティコンサート。世界中から有名アーティストが参加した)」以来の歴史的なチャリティコンサートになりました。これって、まさにプロパーユーズだし、既存メディアに頼らなくてもそういうことが普通に可能だということの良い例ですよね。

【村井】勇気づけられる話だよな。

関連記事
【第1回】アメリカや台湾とは大違い…日本の各地でいまだにFAXが使われている本当の理由
モンスター親をふるい落とす名門校の質問
「小6女子いじめ自殺」チャットに書かれた誹謗中傷はなぜ消されていたのか
「アクセス制限は簡単に抜けられる」学校の配るタブレットでネット中毒に陥る子どもたちの悲劇
「4000冊の蔵書が一瞬で吹っ飛ぶ」アマゾンの電子書籍が抱える根本的な落とし穴