トヨタが「長距離輸送トラック」に着目した理由

トヨタが水素にこだわる理由はこの点にある。

EVについては乗用車については蓄電池を多く積むことで、個人の使用であれば航続距離のニーズを十分に満たすレベルまで向上した。しかし、船舶やトラックといった長距離になると、それを賄い切れるほどの蓄電性能はまだなく、性能向上するにはかなりのイノベーションが必要となる。トヨタはまさにこの穴を水素で突く考えなのだ。

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水素を原料とするFCシステムは長距離の航続距離の実現が可能であり、かつ、水素の充電は3分もあればフル充填じゅうてんが可能である利点がある。

そこでトヨタがまず着目したのが、長距離輸送トラックだ。商用トラックはエネルギー需要量が乗用車よりも多いため、水素需要創出にはもってこいの車両である。すでに北米では日野自動車と提携してFCシステムを搭載した大型トラックの共同開発を行っており、中国でも現地自動車メーカーと提携し、FCトラックの導入準備を進めている。

同様に長距離輸送を前提とする船舶や鉄道、バスへのFCシステム導入も視野に入れ、そこでの水素需要創出もトヨタは虎視眈々たんたんと狙っている。

さらに、国内企業と連携し、産業用の定置式FC発電機を共同開発も進めている。工場等の非常用ディーゼル発電機の置き換えや、港湾での荷役機械、停泊船舶への電力供給などを用途として想定しているとのことで、輸送セクターにとらわれずに貪欲に水素需要の創出に取り組んでいる。

トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある

トヨタがFCV販売で苦戦する中、世界各国は水素に着目をしてこなかった。しかし、再エネのコストが劇的に低下を見せ始めた2019年ころより、欧州から風向きが変わり始めた。

2020年7月には欧州委員会が水素戦略を発表し、巨額の資金を投じる考えを示している。また、世界最大の大型トラック市場を有する中国では、政府が自動車の電動化の文脈で、トラックなどの商用車についてFCVの適用に言及。アメリカも政権の施策パッケージの中でグリーン水素の利活用に触れている。

そうした水素利活用の方向性は、先般、開催された先進7カ国(G7)環境・気候大臣会合においても確認された。成果文書では、水素の重要性と商業規模での水素の推進に言及がされたほか、将来の国際的な水素市場の発展を実現すべく努力という形で記載された。

いま、水素について追い風が吹いている。まさに、トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある状況ではないか。