足が少しでも見える服を着たら公開鞭打ち刑

各国の支援のおかげで、人々は自由を謳歌おうかしていました。女性は誰にも脅えることなく堂々と顔を出して外出する。好きな音楽やファッションに身を包み、サッカーでも凧揚げでも好きなことをしてよかった。街に行けばいろいろなレストランがあった。市場はかつての賑やかさを取り戻しました。

残念ながら、その時代は過去となりました。

タリバン政権がどれだけ融和や進歩を語ろうと本質は変わらない。女性が男性と連絡をとることすら禁じられ、足が少しでも見える服を着たら公開鞭打ち刑。かつて経験した恐怖政治という地獄の日々が、早晩復活するでしょう。

人間にとって何よりつらいのは自由を奪われることだと私は思います。現在、膨大な数の人々がアフガニスタンから陸路でパキスタンやイランへ逃れています。目的地は難民キャンプです。大変な暮らしが待っているとわかってても、タリバンの下にいるよりマシという判断です。

「ガニ大統領がアフガンを見捨てた」とは思えない

8月末にカブール国際空港付近で起きた自爆テロでは180名以上が死亡し、直後にテロ再発の可能性が示唆されていたにもかかわらず、空港にはなお多くの人が押し寄せました。

中には飛び立つ米軍機につかまって空中から落下した若者もいました。タリバン政権下の地獄を逃れられるなら死んでもいいという覚悟で、自由の国へ行きたかったのだと思います。

アフガニスタンのアシュラフ・ガニ前大統領(2020年2月14日、ドイツ・ミュンヘン)(写真=U.S. Secretary of Defense/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

立場上、許されるものではないですが、「ガニ大統領がアフガニスタンを見捨てた」というのは事実とは思えません。彼はカブール大学学長や財務大臣など重要ポストを経験し、清廉潔白とうたわれていました。そのため、汚職の噂が絶えなかったカルザイ前大統領に対し、不正の撲滅を掲げ、国民から期待されていた人物です。彼が国外逃亡を余儀なくされたのは、身の危険を感じたからと私は理解しています(※)

※編集部註:9月8日、ガニ大統領はツイッターで「1990年代の内戦時のような市街戦になるとの大統領府警備の忠告に従って国外退避した」と釈明した。

金を積んで逃げたという報道も、真偽は不明です。いずれ身の安全が保障されれば、ガニ大統領はアフガニスタンに戻り、タリバンと国家運営についての話し合いをするでしょう。

タリバン幹部は末端メンバーを管理できていない

新政権の今後について、今は座して待つしかありません。かつてのように民衆を厳しく統制すれば反発が起きるでしょうから、タリバンは政権維持のために、昔よりは多少の自由を与えるのではないかと思います。

とはいえ、タリバン幹部は末端メンバーの行動を完全にコントロールできていません。一口にタリバンといっても、その中にはいろいろな派閥があります。つまり烏合の衆であり、共通敵のアメリカなき後、権力闘争が始まるのは目に見えています。

政治の世界はグレーゾーンで先のことは何もわかりません。タリバンがどんな政権を運営するのか、別の国と勢力を作るのか、他のグループがどんな行動をとるのか、注視していく必要があります。

少なくとも民主化政策をとらないとタリバンの広報官は話しているので、彼らの協議と相反するアフガニスタン・イスラム共和国憲法は捨てられてしまうでしょう。この20年、各国の支援と素晴らしい憲法の下、進められてきた民主化への歩みは止められるわけです。非常に悲しいですね。

(インタビュー・構成=大西 夏奈子)
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