伸びるのは「面白い仕事をえり好みして真剣にやる人」

——笑福亭鶴瓶さんの授業「『もっと、おもろなりたい!』と叫んだ男。」を拝見しました。高座のためにタクシーを呼んだら、運転手さんから「お客さん、帽子かぶってマスクしてたら、鶴瓶そっくりや」と言われた。すぐに「いや鶴瓶や」とは言わず、「西宮の芸文まで」と行き先を告げたら、雰囲気が変わった。タクシーが楽屋口に着いたら、「ごめんなさい」と謝られた、と。大笑いしました。テレビでもYouTubeでもない、人の話を聞いているおもしろさがありました。これはギャラの多寡とは関係がありませんよね。

【糸井】たとえば、広告と雑誌ではギャランティーの考え方がぜんぜん違いますよね。僕、両方知っているので、同じ人が100倍違う値段でOKしたり、しなかったりというのも目にしてきましたが、結局やりたくてしょうがないことをやるべきだというのが一番重要なんだと思うんです。

だから、早くからお金のことを身につけた人って、やっぱり悩む時がくるんじゃないでしょうか。結局得するのはそこじゃないんだよねっていうあたりは、この学校の話と同じです。面白い仕事をえり好みして真剣にやる人というのは後で伸びていますよね。

社員を集めるときに「いい人募集」と呼びかける理由

——ギャランティーの設定は難しいと思います。ビジネスをどう回していくのか、という話と直結しますね。「会社に搾取されたくない」と話す人も増えている印象があります。

【糸井】総利益と人数割りして、「俺はいくらもらえるはずだ」という計算を頭の中でする人がけっこういるみたいですよね。そうなると会社ではなく組合にするしかない。何でしょうかね。運転席にいる人がハンドルを握っていることについて、「頼むわ」という信任がないんでしょうか。僕らが社員を集めるときに「いい人募集」と呼びかけるのですが、そこですよね。チームとして一緒に働きたいか、能力みたいなことで問いかけると、得したいというだけの人が集まってしまうので。

撮影=西田香織
ほぼ日社長の糸井重里さん

——そのユニークさが、ほぼ日の強みだと感じます。

【糸井】何でしょうかね。難しいところですけど。だから一緒にいることの意味みたいのを絶えずリーダーは提案できないと。社長の仕事って従業員を飽きさせないことだけですよ。お客さんが飽きちゃったら困るんですけど、関係者が飽きないでいるかどうかというのさえキープできていれば、動きがあるわけですから。稲の実らない田んぼを耕しているだけでも必ず何かにはなるので。

(構成=村上 敬)
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