シジミは睡眠の改善につながるかも
アミノ酸をいくつか紹介していきますが、まずはシジミに豊富に含まれているオルニチンです。シジミから成分を濃縮したものや、合成などで作られたものが市販されています。一般的には疲労回復や二日酔い、あるいは睡眠に良いといわれています。
我々は、オルニチンをマウスに投与することで、血中GLP-1(食事を摂って血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、膵臓のインスリン分泌を促進する働きのあるホルモン)の上昇とインスリン濃度の上昇が見られ、それが肝臓の時計遺伝子、Per2の位相シフトを引き起こすことを報告しました。さらに我々は、マウスの細胞の研究から、このように時計遺伝子に作用する可能性を見出していたので、ヒトでの研究も行いました。
中高年の健常者にお願いし、1週間にわたって毎日、試験食品のオルニチン400mgを就寝前に飲んでもらいました。比較のために影響の出ない対照食を飲んでもらう対照群と共に、夕方から23時近くまで、薄暗い中で唾液を採取し、メラトニンの量を調べました。このメラトニンの分泌リズムを調べる方法は視交叉上核の体内時計を間接的に観察できる方法として広く用いられているものです。
今回のオルニチンの実験はクロスオーバー試験(すべての被験者が両方の条件下で実施する試験)といい、最初の1週間に対照食を摂った人は次の1週間はオルニチンを、最初の1週間にオルニチンを摂った人は次の1週間は対照食を摂取するというやり方で行いました。その結果、各週でオルニチンを摂取したグループはもう一方のグループと比較して、眠りを誘うホルモンとして知られているメラトニンの分泌リズムが有意に1時間程度遅れることがわかりました。
このことから、オルニチンを摂取すると体内時計が夜型化する可能性が考えられ、特に極端な朝型の人にとってはメリットがあるかもしれません。極端な朝型になりがちな高齢者にとって睡眠の改善につながる可能性があります。
豆類や大豆加工食品で早寝早起き体質になれる可能性
アミノ酸であるL-セリンは、神経伝達物質であるGABAの作用を増強し、鎮静効果があると考えられます。GABAは視交叉上核に豊富に含まれていることから、L-セリンの体内時計に対する作用が調べられました。
明暗周期を前進させて新しい明暗環境に順応するまでの期間を測る実験では、L-セリンを投与したマウスではその時間が短縮し、順応しやすかったという結果が出ました。
また、GABA受容体の働きを阻害するとL-セリンの作用も阻害されたという実験があり、睡眠をもたらすことで知られるGABAはL-セリンの作用機序に関与している可能性が考えられます。
ヒトでは、入眠前にL-セリンを摂取すると、夜間のメラトニン分泌リズムの位相が前進しました。したがって、L-セリンは、若者に多い夜型の人が入眠薬として服用することで、体内時計を朝型に持っていけるかもしれません。L-セリンは大豆などの豆類や大豆加工食品などに含まれています。