日本郵政本社の入る東京・大手町プレイスウエストタワー(プレジデントオンライン編集部撮影)

番組自体に不満をもつ日本郵政グループは10月初め、NHKの番組幹部が日本郵政グループに対し「会長は番組制作に関与しない」という趣旨の説明をしたこと(放送法上では番組制作の最終責任者は会長)を捉えて、長門正貢日本郵政社長、横山邦男日本郵便社長、植平光彦かんぽ生命保険社長の三者連名で、経営委員会に「ガバナンス体制の検証と必要な措置」を要求した。

主導したのは、NHKを監督する総務省の事務次官の経歴をもつ鈴木康雄・日本郵政上級副社長。抗議文を発出する前には、やはり総務省の監督下にあるNTT西日本の社長を務めた経営委員会の森下俊三委員長代行(当時)を訪ね、きっちり対応するよう求めていた。

経営委員会は、日本郵政グループの意に沿う形で議論を進め、石原進委員長(当時、元JR九州社長)と森下委員長代行のリードで10月、上田会長に「厳重注意」を行った。執行部は反発したものの、結局、上田会長が日本郵政グループに事実上の謝罪文を届け、いったん幕引きとなった。

正鵠を射ていたNHKの番組

「厳重注意」をめぐる一連の経緯は、一切公表されず水面下に埋もれていたが、1年ほど経った2019年9月、毎日新聞の報道で発覚した。

「経営委員会は個別番組への編集に干渉することを禁じた放送法に違反しているのではないか」「『厳重注意』によってNHKの番組制作の自主自律が脅かされたのではないか」という「公共放送・NHK」の存立の根幹にかかわる問題が急浮上したのだ。

これ以後、かんぽ不正報道問題は、大きく動く。

国会でも取り上げられ、事実関係を解明するため、議事録や関連資料の全面開示を求める声が高まった。しかし、経営委員会は「非公表を前提とした意見交換の場での議論だった」として「厳重注意」に至る議事の開示には応じようとしなかった。

一方、2019年夏ごろから全国の郵便局でかんぽ生命保険の不正販売が表面化、膨大な数の被害者が存在することがわかり、日本中が騒然となった。

「クローズアップ現代+」の報道はまさに正鵠せいこくを射ていたのである。

日本郵政グループが不正販売を認めた後の7月には、棚上げされていた続編が放送されたが、もはや日本郵政グループに番組を押しとどめるすべはなかった。

撮影=プレジデントオンライン編集部
東京・大手町の日本郵政グループ本社

年末になると、日本郵政グループは、NHKに抗議した3社長と鈴木上級副社長が引責辞任、3カ月の業務停止に追い込まれるという前代未聞の不祥事に発展した。

2度の答申を受けてようやく議事録を全面開示

経営委員会は12月、上田会長の再任を見送り、「厳重注意」を主唱した森下委員長代行が委員長に昇格。新体制になっても、議事録の非開示を継続した。

ところが、事態は、経営委員会の不実を許さぬ方向で展開する。

2020年5月、NHKの情報公開・個人情報保護審議委員会(委員長・藤原靜雄中央大学大学院教授)が、議事録の全面開示を答申したのだ。

さすがに経営委員会も無視するわけにはいかず、しぶしぶ「議事概要」だけを公表した。