しかし、答申をないがしろにされた審議委員会は2021年2月、改めて全面開示を答申。そこでは、「情報公開制度の対象となる経営委員会が対象文書に手を加えることは、改ざんというそしりを受けかねない」と指弾した。
そして7月8日、経営委員会は、「厳重注意」から3年近く、審議委員会の最初の答申から1年余り経って、ようやく議事の全容を開示、真相が明らかになったのである。
「ガバナンス問題」にすりかえられた番組介入
全面開示された議事録で浮き彫りになったのは、経営委員会による番組介入の疑いだけではない。経営委員の多くが放送法をきちんと理解しているとは言い難く、経営委員会という最高意思決定機関の一員としての自覚に欠けることや、当然の責務である議事の透明性を確保しようとしなかったことなど、公共放送を標榜するNHKにとって致命傷になりかねない問題ばかりだ。
経営委員会が「厳重注意」を発した当時の議論を詳しく見てみる。
まず、日本郵政グループから「NHKはガバナンスが効いていない」との抗議文を受け取った直後の2018年10月9日の経営委員会。
石原委員長は、抗議文が発出された背景に「郵政には放送に詳しい方がいらっしゃる」と鈴木上級副社長の存在をちらつかせ、「経営委員会は、番組の中身の問題だと受け入れ難いが、ガバナンスの問題なら放ってはおけなかろう」と、真意は番組内容に対する不満だが、放送法に抵触しないよう「ガバナンス問題」を持ち出してきたとの認識を示した。
これを受ける形で、森下委員長代行は、SNSなどを活用して番組を制作するオープンジャーナリズムについて「ちゃんと取材になっているのか。一方的な意見だけが出てくる番組はいかがなものか」と取材手法を批判、さらに番組制作や取材方法の基準を経営委員会が関与してつくるべきだと踏み込んだ。
経営委員会は、禁じられているはずの個別番組への介入が、「ガバナンスの問題」にすりかえれば容易にできてしまうことを実践してしまったのである。
報告を無視して口々に番組批判
そして、上田会長を「厳重注意」した2018年10月23日の経営委員会。
冒頭、高橋正美監査委員から「NHKから日本郵政グループへの説明責任は果たされ、ガバナンスに問題はなかった」旨の報告がなされた。
ところが、その報告をあえて無視するかのように、森下委員長代行が「今回の番組は極めて稚拙。ほとんど取材をしていない」「つくり方に問題がある」「視聴者目線に立っていない」と、番組批判の口火を切った。
すると、他の経営委員も口々に「誤解を与えるような説明がある」(小林いずみ委員)、「一方的になりすぎたような気がして」(渡邊博美委員)など、取材方法や番組の内容にかかわる意見が続出。さらに、「番組の作り方が問題にされた。会長はその責任がある」(中島尚正委員)と禁句ともいえる見解まで飛び出した。