政治の過ちを認めずに「ルール」を改変
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.1版」(2021年7月6日)では重症度を、軽症、中等症I(呼吸不全なし)、中等症II(呼吸不全あり)、重症の4段階に分類し、軽症であっても「リスク因子のある者は入院の対象」そして中等症Iは「入院の上で慎重に観察する」とされている。
つまり今回の方針転換は医学的根拠に基づくものでなく、あくまでも政治的判断ということだ。ここは非常に重要なポイントだ。なぜなら、このような事態に陥ったのは政治の責任であったにもかかわらず、そのこれまでの過ちを認めることも改めることもしないまま、ルールそのものを変えてしまうという暴挙に他ならないからだ。
「今このフェーズで病床が追い付かないわけだから、いろいろ批判はあるけれど自宅療養をやらざるを得ない。医師会の皆さんの協力を得て、開業医の皆さんにしっかり対応してもらい、これを法制度化すべきだ」
8月1日放送のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」で、元大阪府知事の橋下徹氏はこう訴えた。たしかに政府が「重症者以外は原則自宅療養」との方針転換を撤回しなくとも、現場ではすでに中等症でもベッドが見つからない事態に陥っている。この現実を追認しようではないか、今できることを考えるしかないではないか、というのが彼の主張だろう。
もちろん彼は医療については素人だから「入院できないのだから自宅療養だ」そして「自宅療養だから開業医が診るしかない」との短絡的発想をしてしまうのは仕方ないことかもしれない。しかし現場とくに在宅医療を中心に行っている私に言わせると、「貴殿こそ現場を勉強しなさい」との一言に尽きる。
コロナ感染者への“在宅医療”は従来のものと全く別物
「自宅療養を在宅医療で行うべき」と主張するのは彼だけではない。むしろ現状を追認する形で増えているようにも見える。だがこの意見の大きな問題は、従来行われてきた在宅医療と今回現場に求められている新型コロナ感染者に対する“在宅医療”とが全く別物であると理解していない点だ。
従来行われてきた在宅医療とは、主として要介護認定を受けている高齢者や障がい者、あるいは悪性腫瘍などの終末期で、病院での積極的な医療介入よりも自宅で安寧に最期を迎えることが優先され得る方々に対するものだ。たしかに状態変化はあるが、多くの場合はある程度想定されたものであって、救急搬送し集中治療につなげねばならないケースは多くない。
一方、今回現場に期待されているのは、本来であれば医療機関において積極的な医療介入すなわち集中治療が必要であるにもかかわらず、政治的理由によって行われるべき医療に到達できない方々に対する“在宅医療”である。急変はすなわち即刻高次医療につなげねばならない状態であることを意味する。そこには一刻の猶予もない。「ちょっと一晩様子を見ましょう」ということはあり得ない事態だ。
これら2つの在宅医療には、この決定的な違いがある。まったく別物なのだ。