「新型コロナは季節性インフルエンザと同等」とするリスク
一部の医師からは、新型コロナを早く季節性インフルエンザと同等の5類感染症に位置づけ広く開業医で診療すべき、そうすれば特別な隔離も必要なくなり病床逼迫は避けられるという言説も出されている。しかしこれは非常に危険な賭けだと言える。ただでさえ東京オリンピックと度重なる緊急事態宣言で、自粛疲れと緊張緩和のムードが充満しているこのタイミングで、「新型コロナは季節性インフルエンザと同等」とのメッセージが国から発せられたらどうなるだろうか。皆、口々に「罹りたくない」とは言うかもしれないが、新型コロナ陽性であってもごくごく軽症ならば職場にも学校にもいくだろう。「休めない」という有症状者が街に繰り出すことになれば、感染拡大は現下の比ではなくなるはずだ。
感染者数が増加すれば、それだけ重症者も一定割合で増加する。結局、医療現場の窮状は悪化することはあっても、改善することにはつながらないのだ。
自宅療養は家庭内感染者を増やすだけの愚策
さらに医療費の問題もある。現在は全額公費負担だが、5類になれば自己負担が発生するのだ。公助を削りたい政府にとっては今すぐ飛びつきたい「名案」に違いないが、切り捨てられる人を増やすだけだ。現状での5類ダウングレードは、危険な賭けというより極めて無責任な言説だと私は思う。
「病床がないから自宅で」という意見にも2つの無責任が存在する。ひとつは、これまでわが国が行ってきた医療費削減政策によって、医師も感染症病床数も削ってきた責任を一気に患者さん側に押しつけるものであること。もうひとつは、入院病床をすぐに増やすことは現実的でないとするにせよ、一元的に多くの感染者を管理できる大規模施設を設置する努力を一切せぬまま一気に自宅療養という自己責任を前面に押し出すものであることだ。
家庭内感染も問題だ。在宅医として多くの居宅を見てきた者として言わせてもらうと、個々の居宅がすべて感染者の療養に適した環境かというと、決してそうではない。菅首相や政策立案をしている方々のご自宅には居室もトイレも風呂も多数あって広いのかもしれないが、換気もままならない狭い住居に、肩を寄せ合うように暮らしている人も少なくないのだ。
じっさい家族内に感染者が出て無症状ながら濃厚接触者として検査を受けに来た方に、動線は分離できるかどうか聞いてみた。やはり個室に閉じ込めておくことはできるものの、トイレや風呂までの動線は廊下一本。分離は完全には無理とのことだった。結局、この方の検査結果は陽性だった。家庭内感染したのである。
皆さんも自宅でもし感染者が出た場合に、どうやって動線を分けるかイメージしてみてはどうだろうか。おそらく多くの家庭では困難だろう。自宅療養というのは感染者を増やすだけの愚策なのだ。