「英語力ゼロ」でアメリカ留学へ

この頃には、自分の中での新たな将来の進路は決まっていた。

「アメリカで水中考古学を学んでみたい!」

行きたい大学も決まっている。テキサスA&M大学だ。

写真=筆者提供
テキサスA&M大学

テキサスA&M大学には留学生用の語学学校が併設されており、希望すれば外部からも入学できる制度になっていた。せっかく英語を学ぶのであったら、この語学学校に通って、憧れの大学院を見てみたい、同じ空気を吸ってみたい!

そう考えた私は、英語が得意な友人にアメリカの語学学校への申し込み作業を手伝ってもらい、学生ビザを取得する。

大学を卒業して、アルバイトをしながら数カ月過ごし、スーツケース1つに夢を詰め込み、両親に見送られてテキサスに旅立った。

真夏で気温が40度にもなる灼熱の中、ようやくたどり着いたテキサスA&M大学のキャンパス内で、語学学校のオフィスを見つけ出した。クーラーの効いた室内に入ると、受付のアメリカ人女性が話しかけてくる。

私には彼女が何を言っているのかが、さっぱり分からない。運がいいことにその日、少し日本語の話せる韓国人の男性が入学の手続きにやってきていた。彼の通訳によって、ようやく私に住む場所がないこと、知り合いが誰もいないことが彼女達に伝わった。

後から聞いた話によると、私のように住む所さえ決めずに渡米してくる学生は前代未聞だと、職員内で笑いの種になったそうだ。

到着初日にマクドナルドで心が折れる

何もできない私の代わりに、語学学校の受付の女性が入学の手続きやアパートの手続きをしてくれた。しかし入居できるのは、授業が始まるのと同じく1週間後。それまでは、語学学校の先生が手配してくれた大学近くの安いモーテルに滞在することになった。

モーテルに着いた頃には夜の6時を過ぎていた。前日からほとんど何も口にしていなかった私は、考えられないほど空腹だった。

歩いて行ける距離にマクドナルドがあり、そこで食べることにした。店内は夕食時でとても混雑している。私が注文する番になり、体格の良い女性店員に何か尋ねられたが、彼女が何を言っているかは全然理解できない。

実は、アメリカのマクドナルドではハンバーガー単品のことを「サンドウィッチ」、セットメニューのことを「ミール」という。そんなことは全く知らない私は「バーガーセットプリーズ」と完全な日本人発音の英語で懇願していたのである。

徐々に店員の女性のいら立ちが顔に見え始め、繁盛している店内で私の後ろの注文待ちの列は、みるみる長くなっていった。

私の心は、完全に折れてしまった。

語学学校の授業の始まるまでの1週間、私はモーテルの受付の横にあった小さなスナックとジュースの自動販売機だけで命を繋いだ。部屋と自動販売機を行き来しながら「なんで自分は、こんな所に何も考えずに来てしまったのか?」と、情けなさと後悔で泣きながら過ごした。