「JFAとしては、専門家の協力を仰ぎ、我々のネットワークを利用して、芝生管理の知識やノウハウなど様々な情報を提供したい。場合によっては、そういう人たちに現場に出向いてもらって指導してもらえるような体制をつくり、公共施設の緑化を進めていきたいと考えています」
サッカーのためにやっているのではない
「サッカー界が芝生のグラウンドを推進するとなると、『サッカーのためにやっている』と取られることが多いのですが、それはまったくの誤解です。わたしたちは子どもたちをはじめ、老若男女が外遊びやスポーツに親しむことによって、人々の心身の健全な発達に寄与することを目的に活動しているんです。それが、スポーツ界の義務であり、責任だと思うからなんです。
実際に芝生化した学校に伺うと、土のグラウンドのときよりも子どもたちが外で遊ぶようになったとか、よい気分転換になるので授業にも集中できるようになった、などという話をよく耳にします。それに、芝生なら転んでもケガが少なく、冬も適度な湿度が保たれるため、風邪を引きにくくなるし、夏の猛暑では、ヒートアイランド現象を緩和するといった効果があります。土埃が立たなくなった、水溜りができにくくなったなど、予想以上の効用が表れています。
実は都内で初めて芝生にした杉並区の和泉小学校(2002年に芝生化、2015年に3校統合で杉並和泉学園に)では、歩行器を使ってしか歩かなかった児童が、校庭が芝生になった途端、クラスメイトの力を借りながらも自分の足で歩きました。わたし自身、そんな感動的な場面を目の当たりにしたこともあります」
子どもたちのために大人は何ができるか
その言葉を思い出して、彼は言った。
「誰だって、ぼこぼこの土のグラウンドより、緑の芝生の上でボールを蹴ったり、寝っ転がったりしたいんだ。子どもならなおさらだよ」
川淵は芝生を植える運動を進めていた間も忙しい人生を送っていたのだが、子どもと芝生のことを語るとなると、目が輝き始める。
そんな彼にある情報を教えた。
「組織委員会理事の、あの高橋(治之)さんがオリンピックで子どもたちのために一肌脱ぐそうです」
川淵は身を乗り出した。
「どんなことやるの?」
「こんなアイデアですけれど」
「えーっ、高橋さん、やってくれるじゃない。大賛成。絶対、応援する」
川淵と高橋のふたりはオリンピックの評議員、理事として付き合いがあり、昔にさかのぼれば日韓ワールドカップの頃からよく知る仲だ。
川淵は高橋がやろうとしていることを知って、上機嫌になった。