内気な娘に小学校生活がこなせるのか
娘は内気で周囲に気を遣い、自分の考えをすぐに言葉に出すことが苦手な性格だったという。0歳から通う保育園はゆったりとしていて、自分のペースで過ごせていたが、小学校ではそうもいかない。周囲に合わせて動かねばならない小学校生活が気がかりだった。
そんなとき、当時はまだ開校前の大日向小理事の長尾彰氏と仕事を共にしたことから、大日向小に興味をもった。夫妻で入学体験や説明会に参加し、出会った教職員の雰囲気や言動からも、イエナプラン教育の理念を具現化しようと努力していることが感じられたという。
「もともと『学校と深く、ポジティブに関わりたい』という気持ちがあったんです。イエナプランはそもそも対話や社会との関わりを重視しているので、親の関わりも歓迎されていて、そういう意味でも『ここなら娘に合いそう』と夫と話しました」
娘を大日向小に通わせるためには、当然移住するしかない。夫は都内の会社に勤務しているため、母子2人での引っ越しだ。娘が自分のことを自分でできるようになってきていたことや東京との行き来のしやすさから、迷いや不安はほとんどなかった。「夫は、ゆくゆくは長野で副業先を見つけて東京との2拠点居住なども視野に入れつつ、ひとまずは東京に残ることになったんです」
「卒業したら東京に帰る」という選択肢も
夫も大日向小への進学に前向きで、移住することに不安はなかったが、それでもやつづかさんには心配ごとが1つあった。それはやはり娘の気持ちだ。娘は当初、「引っ越したくない」「保育園のみんなと同じところに行きたい」と、友達が誰もいない学校へ行くことに後ろ向きだったという。
「実際の授業を見学させてもらえる“学校見学”の日の朝は、『行きたくない!』とふてくされていたんです。そこで、娘にこう話しました。
『大日向小は、いろいろな人がお互いに話し合って、協力し合って生きていけるようになるための練習を大事にしているんだよ。それは、大人になってからも大切なことだから、小学校で練習できるのはすごくいいことだと思う』
『あなたは、心の中ではたくさん考えていても、なかなかほかの人に言えないことがあるでしょう。イエナプランの学校だったら、自分の気持ちを話せるようになるんじゃないかな、と思うんだ』」
やつづかさんは、イエナプランのコンセプトを娘にも分かりやすいようにかみ砕き、「なぜ必要だと思うのか」を丁寧に説明した。娘は最後まで納得こそしていなかったものの、「じゃあ、小学校だけだよ。小学校が終わったら東京に戻るからね」と言うようになったという。
「そうだね。卒業して、東京に帰りたかったら帰ろう。それまでの間に、どうしても合わなければほかの小学校へ行ってもいいよ。夏休みには、保育園のお友達にも会いに行こうね」