普段はもちろん、夏休みなどの長期休暇にも宿題は出さない。やつづかさんは、子どもたちの様子についてこう話す。
「ゲームやポケモンカードなど都会の子と変わらない遊びもしつつ、学校や学童の時間では、身近な自然の中でよく遊んでいます。最近娘のクラスでは、校庭にある使われていない動物小屋にいろいろなものを持ち込んで、秘密基地づくりを楽しんでいるようです」
保護者のひとりが運営する学童は、ほかの保護者も「サポーター」として関わり、アットホームな雰囲気だという。
全校生徒136人のうち104人が移住者
もうひとつの大きな特徴は、移住者の割合が高いことだ。全校児童生徒136人(小学校127人+中等部9人)のうち104人が移住者で、うち96人が県外からの移住。もともと佐久地域に住んでいる児童は、残りの30人ほどだという(2021年6月時点の情報)。
桑原校長によると、「北は北海道から南は九州までさまざまですが、東京から佐久平まで新幹線で1時間20分で来られることもあり、やはり首都圏からの移住が多い」そうだ。
北陸新幹線の佐久平駅から佐久穂町までは、車で20~30分。移住組の児童104人のうち約3割が、母子移住または父子移住だという。「仕事の関係でお母さんが東京にいるご家庭もあるし、それぞれのライフスタイルに合わせて選択されている」そうだ。
「東京に多様性はあるのかな」と考えるようになり…
2020年春に東京から母子移住したやつづかさんは、娘の進学先に大日向小を選んだ理由をこう話す。
「最初は、『公立小学校で多様なお友達と仲良くなれば、それでいい』と考えていたんです。横浜の公立校で育った夫も同様の考えでした。けれど、娘が大きくなるにつれて、『今の東京の環境に多様性ってあるのかな?』と考えるようになって」
ある日近所の人と話した際、小学校卒業後に私立中学を受験するのが当然という空気を感じとったという。
「小学校生活のどこかで受験をする、しないの選択をせねばならないという実情を知ったんです。『しない』という選択肢もあるにしろ、多くの親が受験を選ぶと。これはきっと、3~4年生になる頃には周りの子が塾へ行き始めて、娘も私も影響を受けそうだな、と思いました」
夫に相談すると、そうした事情に同じ懸念を示した。また、やつづかさんには、子育てにある“こだわり”があったという。
「娘には、受験勉強をさせるよりも実体験から学んでほしいんです。学校だけでは得られない、さまざまなことを」