原発を再稼働しても発電量は足りない

エネルギー部門の排出量が多いのであれば、原発を再稼働すればよいという考え方も成立しますが、話はそう単純ではありません。

電力の約7割を原発で賄うフランスの排出量は確かに低くなっていますが、英国やイタリアの排出量も、日本と比較すると著しく低い水準にとどまっています。これは再生可能エネの比率が高いことと、石炭火力の依存度が低いこと、さらにいえば、社会全体のエネルギー効率が高いことが理由です。原発に対する国内世論をクリアして再稼働を進めたとしても発電量は全体の約3割に過ぎず、現実問題として脱炭素の決め手にはなりません。また日本は家屋の断熱性が低く、家庭部門の二酸化炭素排出量も他国よりも多いのが現実です。

日本は原発事故という不幸がありましたが、二酸化炭素の排出量が多い理由は、再生可能エネの比率が低いことと、石炭火力の依存度が高いこと、そして社会全体のエネルギー効率が低いことですから、これをクリアしなければ目標を達成することは不可能です。

ここで取り上げた7カ国の排出量の平均値は2.9トンですから、これを上回っている日本・米国・ドイツ・中国は、外交交渉上、弱点を抱えており、この状態からできるだけ早く脱却することが最優先課題と考えるべきでしょう。

高付加価値化と消費立国への転換を急げ

菅政権は、この問題の切り札として2040年までに4500万キロワット分の洋上風力発電所を建設する方針を掲げましたが、あまりにも壮大な計画だったことから、国内では驚きの声が上がりました。実は、日本メーカーの多くは再生可能エネへの対応ができておらず、この分野は外国企業の独壇場となっています。政府は2040年までに、国内調達比率を6割にするとの目標を掲げていますが、逆にいえば、2040年になってもまだ4割を海外メーカーに依存しなければ発電所の建設ができないことを意味しています。

加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)

政府のこうした方針については、海外に資金を流出させるだけだとして批判する声もあるようですが、政府が輸入に頼ってでも、再生可能エネへのシフトを急いでいるのは、事態が極めて切迫しているからです。

日本や中国、ドイツの排出量が多いのは、製造業の比率が高いことも影響しています。グラフ3は製造部門の1人あたりの二酸化炭素排出量を比較したものですが、米国・日本・ドイツ・中国の4カ国が平均値である1.1トンを上回っています。中国は世界の工場ですから、排出量が多いのは想像できますが、日本とドイツを比較した場合、ドイツの排出量が少ないのは、大量生産ではない高付加価値製造業が多いことが原因と考えられます。

脱炭素社会では、低付加価値な製品を大量生産する国は不利になりますから、可能な限り付加価値の高いビジネスモデルに転換しなければなりません。最終的には、製造業立国ではなく、消費立国にシフトした方が有利であり、中国はそれゆえに、無理を承知で消費主導型経済へのシフトを急いでいるのです。

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