昨年9月、中国は国連総会で「2060年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする」と宣言した。経済評論家の加谷珪一さんは「中国が方針転換したのは、脱炭素シフトが『ババ抜き』と同じであることを理解したから。これはものづくりの国が必ず負けるゲームで、日本も脱炭素シフトを急ぐ必要がある」という――。

※本稿は、加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

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「脱炭素シフト」は現代の戦争

全世界的な脱炭素シフトは、地球環境を保護し、気候変動を抑制する目的で行われていますが、それだけが理由ではありません。脱炭素をめぐる動きは、むしろ大国間の覇権争いそのものであり、限りなく戦争に近い行為であると解釈した方が自然です。

戦後における国際社会の基本的な枠組みはすべて米国が作り上げたものです。米国は、圧倒的な経済力を背景に、全世界にドル経済圏を確立し、世界のリーダーとして君臨してきたことは皆さんがご存知の通りです。そして、石油という資源は、米国の世界支配をより強固にするツールとしての役割を果たしてきました。

石油流通の多くは石油メジャー(国際石油資本)と呼ばれる米国企業が押さえており、石油の代金決済はすべてドルで行われます。米国は圧倒的な軍事力で世界中のほぼすべての海域における制海権を確保していますから、中東から石油を輸入する国は米国の軍事力に頼らざるを得ません。

一方で米国はシェール革命によって世界最大の石油産出国のひとつとなりました。中東に依存していたのは過去の話で、今やエネルギーのほとんどを自国で賄うことができます。現在の米国はエネルギーに関してもっとも自由な国ですから、石油がなければ生きていけない他国に対して石油の安定供給を保証することで、圧倒的な立場を維持できたわけです。

米国と覇権争いをしている欧州や中国が、石油を基軸とした米国の覇権を苦々しく思っていたことは想像に難くありません。しかしながら現実問題として、欧州や中国は石油を採掘することができませんし、石油がなければ、国家の運営そのものが成り立ちません。欧州や中国は、こうした事情からやむを得ず米国の石油支配を受け入れてきました。

環境技術の革新で状況が激変

ところが、近年、めざましい成長を遂げた環境技術のイノベーションによって状況が大きく変わり始めました。再生可能エネルギーのコストが劇的に低下するとともに、ITインフラの発達によって、広域を網羅する分散電力システムの構築が現実味を帯びてきたのです。もし自国で消費するエネルギーの大半を再生可能エネでカバーすることができれば、それは完全に自国産のエネルギーということになりますから、これは安全保障上、絶大な効果をもたらします。

戦争の継続にはエネルギーの確保が絶対条件となります。安全保障上もっとも重要なエネルギーという問題について、他国に依存しない体制を作れる可能性が見えてきたわけですから、各国の政治的指導者が、脱炭素シフトに絶大な期待を寄せるのはむしろ当然のことといってよいでしょう。