中国の排出量削減は困難を伴う

一方、日本や米国そして欧州にとって、脱炭素という動きは、経済大国として君臨しつつある中国を牽制する強力な武器として作用するでしょう。

中国も脱炭素シフトを決断したとはいえ、現時点では世界最大の工業国なので、排出量削減にはかなりの困難を伴うからです。中国に対して十分に排出量の削減が進んでいないとしてプレッシャーをかけつつ、再生可能エネや省エネ関連の技術を中国に販売したり、排出権取引の仕組みを使ったりして中国に排出枠を高く販売するといった対応が可能となります。

中国にとって脱炭素は最大の弱点であり、そうであればこそ、この弱点を武器に変えられるよう脱炭素シフトを急いでいるわけです。

このままでは脱炭素カードを使えない日本

当然のことながら、こうした中国に対する牽制策というのは、日本にとっても有益ですが、困ったことに今のままでは、日本はそのカードを十分に使えない可能性が高いといわざるを得ません。その理由は、政府は脱炭素に明確に舵を切ったものの、産業界の一部や世論はこの方針にあまり賛同しておらず、日本の脱炭素がスムーズに進まない可能性が高いからです。

これまでも日本は、二酸化炭素を大量排出する石炭火力にこだわり続け、国際社会から批判されてきました。今後、日本がスムーズに脱炭素を実現できない場合、それを武器に中国を攻めるどころか、逆に脱炭素に消極的であるとして中国と同じ側に立たされてしまい、諸外国から圧力を受ける可能性も否定できません。

「各国の一人当たりの二酸化炭素排出量」(図表1)を見ると、圧倒的にエネルギーを消費している米国に次いで、日本は一人当たりの排出量が多く、ドイツと同様に不利な状況にあります。

各国の1人あたりの二酸化炭素排出量

日本の1人あたりの二酸化炭素排出量が多い理由は、先ほども説明したように、大量の二酸化炭素を出す石炭火力への依存度が高いからです。この様子は部門別の排出量を見るとさらに明白になります。

図表2は電力・熱源部門における二酸化炭素排出量(1人あたり)を示したものですが、日本は4トンを超えており、ドイツよりも多くの二酸化炭素を排出しています。ちなみに中国の排出量が多いのも石炭火力が原因です。

電力・熱源部門における二酸化炭素排出量(1人あたり)

ドイツは全発電量のうち約44%を、日本は約32%を石炭火力に依存しています。石炭火力への依存度が高い国は、しばしば各国から批判されますが、その矛先はドイツではなく日本に向けられることが多いのが現実です。

その理由は、ドイツは石炭火力に依存する一方、再生可能エネの比率も高く、この分野ではもっとも先を行く国と認識されているからです。日本は再生可能エネにも消極的だったことから相対的にかなり不利な立場にあるのです。

この問題について国内では「ドイツも石炭火力に依存しているのに、なぜ日本だけが攻撃されるのか」「欧米はズルい」といった批判の声をよく耳にします。しかしながら、こうしたナイーブな感覚は冷酷な国際社会ではほとんど通用しないでしょう。

繰り返しになりますが、脱炭素は地球環境を守るためのボランティア活動ではありません。次世代の国家覇権を賭けた準戦争行為です。国際交渉では勝ち負けがすべてであるという厳しい現実について日本人はもっと強く認識する必要があると思います。