ものづくりにおける“本気度合い”が購入の基準に

サブプライムローン問題で世界中が未曾有の不景気に見舞われたのが2007年。東日本を未曾有の大震災が襲ったのが2011年。次々と起きた問題や天災により、否応いやおうなしに育まれてしまった「明日は何が起こるかわからない」という不安は、今という瞬間を美しく生きたいという気持ちにスライドし、あらゆる物事を“本質”と向き合わせることになった。

同時にそれをファッションで言えば、2000年代半ばから長く続いたクラシック・トラディショナル回帰の流れをみ、ものづくりにおける“本気の度合い”が購入する・しないにおける一つの基準になった。

材料に何を使い、どんな環境で、誰の手によって作られているのか?

生産者の顔が想像でき、生産のプロセスが垣間見えるものづくりに人々は本質を見出し、衣食住すべてにそれを求めるようになっていった。この興味関心が、次第にエシカルやサステナブルへの精神と発展していった。

「定番モデルがおしゃれ」の価値観が入り口を広げた

いいものを長く。新しいものを所有するよりも、メンテナンスを繰り返しながら大切に使い続ける喜び。そうしたことに価値を求める時代に変わり、それはベーシックを崇拝する志向を生み出した。雑誌などのメディアでは、「長く愛せる名品」特集があちこちで組まれ、人気を博すようになった。なお、名品とされる条件は、当初、前述したものづくりにおいての“本気度合い”であったが、次第に「歴史があるもの=価値の高いもの」へと基準も少しずつ変わり、存在感を増していった。

こうした流れはスニーカーにも影響を及ぼし、定番モデルを再評価する動きが生まれる。

その対象は、たとえばニューバランスの900番台や1000番台に始まり、アディダスオリジナルスの「スタンスミス」や「スーパースター」、ナイキの「エア マックス」、コンバースの「オールスター」、ヴァンズの「オールドスクール」など、各メーカーのアイコニックなモデルがかわるがわる注目された。

ヴァンズ「オールドスクール」(筆者私物)(画像=『1995年のエアマックス』)

このトレンドは、スニーカーのエントリーユーザーにも相性が良かった。「最新作よりも定番モデルに価値があり、おしゃれだ」という空気が広まれば、これまでスニーカーに向き合ってこなかった人にも入り口が明確だし、手に取りやすい。

後述するが、特に影響を受けたのが女性だろう。彼女たちにとって、パンプスから履きかえることへの抵抗感は少なくなったし、また基礎知識を得ることで、そこから先に広がるスニーカーの世界に興味関心を持ちやすい状況も生まれた。たとえ突飛なデザインであっても、そのモデルが世間一般のベーシックであることを知れば、人は疑うことなくスタイルに取り入れる。