売り上げではなく客数を増やす

作業服は消耗品だから常に一定のニーズがあり、機能優先でデザインに流行り廃りがない。そうした業界特性の中、ワークマンは高機能な商品を最安値で販売するというポリシーを貫くことで、高い支持を集めてきた。

「別な言い方をすれば、ワークマンは売り上げを増やそうとせずに、客数を増やそうとしてきたのです。売り上げを増やすために製品単価を上げれば儲かりますが、儲かるとなると新規参入が増えて競争が激化してしまう。だから、ワークマンの経営指標は売り上げではなくて客数なんです。客数が増えて売り上げが増えたら、その分をお客さまに還元してさらに値段を下げてしまうのです」

そこまで徹底して低価格を追求していれば、競争者は簡単には現れない。その結果、ワークマンと常連客との間には、絶対的な信頼関係が成立することになる。

値札を見ずに買っていく顧客

「店舗を観察していて気づいたことですが、ワークマンのお客様は滞留時間がとても短い。なぜなら、値札を見ないで商品をレジに持って行くからです。良心的な価格であることを信じて下さっているから、値札をチェックする必要がない。みなさん、デパートで値札を見ずに買い物をしますか? 値札をチェックするのは価格に不安があるからですよ」

写真提供=ワークマン
安くシンプルな価格設定で、値札を見ずに買っていく顧客が多い。

低価格の実現に貢献しないことは徹底的に「しない」ことで、ワークマンは40年という長きにわたって客の信頼を獲得し、その圧倒的な信頼が安定経営の支えになってきた。だから、客の信頼を裏切るようなことはしない。そして、裏切りの最たるものが、「短期的に売り上げの拡大を図ること」なのだろう。

トレードオフの関係にある選択肢のどちらを選ぶかという判断には、常に「低価格の実現」と「長期的な信頼の構築」に資するか否かというモノサシが当てられる。現場が勇気ある選択を下せるのは、暗黙のうちに、こうしたモノサシが共有されているからではないだろうか。