急拡大するつもりはなかったのに、売り上げが上がってしまった
ワークマンは現在、10期連続で最高益を更新するという快進撃を続けている。2014年に成長の限界を見越した土屋専務が中心となって「客層の拡大」という新たな経営ビジョンを打ち出し、ワークマンプラス、#ワークマン女子という新しい形態の店舗を生み出した結果だ。
これは一見「売り上げの急拡大」に見えるし、実際、ワークマンの売り上げは急拡大しているが……。
「ワークマンは売り上げにこだわっていませんし、私も急拡大をしたいとは思ってはいません。どうせホワイトマーケット(空白の市場)なので、本来は20年、30年かけてゆっくりと耕していけばいいのです。しかし、客層の拡大を図った結果として売り上げが拡大してしまったと。ここで、あまりにも仕入れや生産(PV商品を生産している)をチビって欠品ばかり出していると、『ワークマンは消費者の方を向いていない』と受け取られてしまう。そうした『評判のリスク』があるので拡大をしているのであって、あくまでも売り上げの拡大自体が目標ではないんです」
とてつもなく大きい覚悟
「客層の拡大」とは、作業服のユーザーであるプロの職人以外の層にワークマンの商品を販売していくことを意味する。冷静に考えてみれば、これはとてつもなく大胆なデシジョンである。
「プロのお客さまには朝と夕方売って、昼間は一般のお客さまに売るなんていう二毛作みたいなことが、本当にできるのかと。先ほどのトレードオフの議論では、判断には現場の勇気が必要だと言いましたが、こうしたデシジョンを下すためには経営陣の覚悟、それも大きな覚悟が必要です。2年、3年で売り上げを増やすなんていうのは小さな覚悟であって、『客層の拡大』は、経営者が2代、3代引き継いで100年かけてやることですから、とてつもなく大きな覚悟なんです。裏返して言えば、多くの大企業が掲げる目標のほとんどは軽いもの、小さな覚悟しかいらないものなのです。そういう目標をいくつも立てたって、何がやりたいのか社員にはよくわからないのです」